幹部と店員、そして恋〜em〜 ページ13
幹部としてではなく、一般市民として、バレない様に変装をして街を歩く。そもそも一般の方々と会う機会が少ない私は、服装を変えれば、ほとんどバレない。少し、悲しい気もしますが。
多くの店たちの中に佇む、小さな書店に目が惹かれ、ふらふらと入ったのが運の尽きだった。思ったよりも中は広く、ほんの種類も多い。見たことのないものも多くあり、ほんの気まぐれで、本を買おうと決めた。
幼子に読み聞かせる様な物も、珍しい本も、探せば探すほどあり、どれを買おうか迷ってしまった。うむ…全部買うほど所持金は多くない。どうしようか…。
「どの様な本をお探しですか？」
書棚に集中していた私は、隣に立つ女性に、声をかけられて初めて気がついた。ハッと顔を上げると、ニコニコと微笑む女性に目を奪われる。…あまりに綺麗で、儚くて。
「えっ…と…。」
思わず言葉が出ず、何も答えられない。頭の中がぐちゃぐちゃで、何を言って良いのかわからない。そんな私に、女性は嫌な顔一つせず、ジッと待っている。
「ジャンルさえ言っていただけたら、お探ししますよ？」
ずっとだまったまあの私に気を使ったのか、また口を開く女性。そっと胸元を覗き見ると、鈴木、と言う字が見えた。…はぁ…胸元覗くんは罪悪感あんで…。
「…す、鈴木、さん？の、オススメ、とか…。」
ゆっくり、心を落ち着かせて、やっと、発声した私に、きょとん、とした顔をした鈴木さん。どど、どうしたのだろう、何か粗相をしてしまっただろうか。
「な、まえ…あぁ、ネームプレートですね。改めまして、鈴木Aと申します。ご希望の本はありますか？」
驚きから発言した鈴、いや、Aさんが、落ち着きを取り戻してにこりと笑う。A、さん…名前まで美しい。いや、それは贔屓目だろうか。
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