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ホテル内の自販機でコーヒーを買う。
がこんと音を立てて出てきたスチール缶を拾い上げ、タブを起こす。
今日一日の俺は特にできることもないので、もう一つ購入した缶コーヒーを持って部屋に戻る。
本来ならシングルを二部屋で予約したいところだが、万が一の時に部屋が分かれていては迅速な対応ができないので、とった部屋はツインだ。
部屋の前まで戻り、扉をノックすると中から安室が開けてくれた。
「こんな時にコーヒーですか」
今はまだ安室の皮を被ったままでいるつもりらしい。それもそうか。今は組織の仕事の真っ最中で、離れているとはいえライもいる。
コーヒーを投げて渡すと見事キャッチした安室はそれをそのままテーブルに置いて椅子に腰掛ける。
「ようやく降谷捜査官と一緒に仕事ができるからな。コーヒーでも飲まないと緊張してしまうのさ」
「……面白い冗談だな」
親指と人差し指で丸を作ると、その眼光が鋭くなって、降谷零が顔を出す。
面白いなんて言っておいて顔は全く笑っていなかった。俺も笑わせるつもりはなかったので別に気にはしない。安室透としての仕事も今日は終わりだ。
この後も外からホテルを監視するライには申し訳ないが、今の俺たちはもう組織の仮面を脱いでいる。といってももう素顔を晒している降谷零とは違い、俺はまだあと一枚──誰にも暴かれることのない仮面を被っているわけなのだが。
「そんな事より、捜査官はどんな仕事をこなしてきたんだ?」
「この前も言ったはずだ。同じ組織の人間だからといって、事細かな任務の内容を話すつもりはない」
「……俺は逐一報告してたんだけどなあ」
頭をポリポリかきながら不満げに漏らした。
部署は違えど、こと潜入捜査において俺たちは同じ指揮官のもと任務にあたっている。位でいえば降谷零の方が上なので、その降谷零に報告をするのは当然といえば当然なのだが、俺としてはそんなことより潜入してからここまでのし上がってきた相棒の武勇伝を聞きたいところだったというのに。
本来なら組織内での仕事に秘匿の義務はなく、情報を共有して捜査範囲を分担することも一つの策であるのだが、この男がそう言うのなら俺に話す必要はないと判断したということだ。冒頭の含みのある忌避も、その意思表示のひとつだ。
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作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時