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前回──初めてあの少女と会ったときの俺は、彼女には気付かなかったし、彼女も俺の事を意識してはいなかっただろう。
でも今回は、俺も彼女もお互いを認識して、共犯となって電車に乗りこんだ。経緯は違ったのに、結局彼女はライに見つかって、俺は彼女にベースを教えている。
だとしたら、俺が結末を変えようと動いていることの全てが無駄な足掻きなのかもしれない。
重なる部分と重ならない部分にどう違いがあるのかは分からないが──ライやベルモットと知り合ったのは前回よりも早かったし、降谷零が組織に潜入したのだって、俺がスコッチというコードネームを手に入れたのだってそうだ。
なのに結局は帳尻が合うように、俺は前回と同じ時期にあの少女に出会った。それらが全てそうあろうとする、宿命だとか運命だとかの力のせいなら、俺に何ができるだろう──。
なんて、らしくもないことを考えながら小さくため息をつく。印象に残っている出来事なら大体の日付は把握できているが、それ以外の細かいところとなるとどうも自信がない。それでこの先どう動く？
「スコッチ……着きましたよ」
安室の声に顔を上げると、いつの間にか始末屋の潜入しているホテルの前に着いていた。
安室が支払いをしながらずっと動かない俺を訝しげな眼差しで見つめている。とっくにドアは開いていて、後方に視線を向けると、トランクからギターケースを引っ張り出しているライが視界の端に映った。
タクシーを降りてその横まで移動するとライがギターケースを手渡してくる。
受け取ろうと手を伸ばしたところで、ライがこちらをじっと見ているのに気づく。
小首をかしげると、ライは何か言いかけた。それでもタクシーから降りてきた安室に「何してるんですか。早く行きますよ」と声を掛けられ、結局彼は何も言わずホテルの入り口へ向かった。
何を言おうとしたのだろうか。疑問に思ったがあえて追求ことはなかった。
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
