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「お兄さん……ゴメンね。ボクのせいで、秀兄に怒られるかも」
「かまわないよ。俺は色んな人に怒られ慣れてるからね」
誰とは言わないが。
まずは基本から、とドレミの音を出せば、沈んでいた顔がたちまち元気になっていく。
声を掛けてよかった。あのまま泣き出していれば流石のライもそのまま立ち去ることはできなかっただろう。かといって、そろそろこちらに着いているだろう安室にも俺にも、彼女を家まで送り届けるなんて言えっこない。組織の人間に弱味を握られるわけにはいかないだろうから。
楽しげな表情で教えてもらったとおりに弦を弾く少女に安堵して、じゃあ今度は何を教えようかと思ったところで、
「スコッチ」
背後から呼ばれて振り向く。帽子を被った安室がそこに立っていた。
後方にはエレベーターがあったはずだ。それを利用してこのホームまで降りてきたのだろう。
腕を上げてベースの間から少女を解放すると、その頭をぽんっと一度撫でてギターケースを拾い、少女から離れる。
安室の腕を引いて彼女との距離を開けると、顔をしかめられた。
「あの子供は?」
「保護者とはぐれて迷子になったらしい。携帯で連絡を取ったからすぐに迎えが来るだろうさ」
そのままエレベーターに乗り込み改札を出る。
ライには外で待ってるとメールを入れて置いたので、彼女を見送ったらすぐに戻ってくるだろう。
「そんなことより、仕事の件だが。」
電車内でライとあらかじめ打ち合わせていた内容を話す。
やがて改札口に顔を出したライと一緒に駅を出て、タクシーを拾う。
車内は無言で包まれた。運転手が何度か話を振ってきたので俺や安室がその度何事か返したが、結局会話は続かずじまいだ。
いつもなら俺が話を振って会話をさせるところだが、自分から口を開くことはしない。
ライは戻ってきたきり無言で、喋り出すような雰囲気じゃない。安室も仕事人に対する社交辞令でタクシーの運転手に言葉を返してはいたが、うまく切り崩して会話を終わらせているあたり本音は静かにしていてほしいのだろう。ならば俺も黙っておいた方がいい。
……それに、俺だって考えなければならないことがあるのだ。
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作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時