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「何故隠していた?」


 思わずお手上げのポーズを取る。
 半ば引きずられるようにして電車を降り、階段とは反対の方向へ歩き出したライに釣られて後ろを歩く。そこには初めの駅からずっと跡をつけていた少女が困惑した顔で立っていた。
 すまない、どうやらバレていたようだ。


「あ、あの……」
「何故ついてきたんだ、帰れ」


 どうしたものかと様子を見ることにする。
 ライが怒っているとわかるや否や、途端に肩を落として視線を下げた少女を可哀想に思う。久し振りにあっただろうに再会を喜ばれもせず頭ごなしに怒られてなあ。

 俺だって流石に目的の場所までずっと着いてこさせるつもりは無かったが、そういう中途半端な情が仇となったのかもしれない。最初の時にライに教えておいてやれば、こうも怒られることは無かっただろうに。
 申し訳なさからか同情からか、口を挟もうとした俺だが、少女はそれを必要としなかった。


「でも……お金もないし、帰り方も分かんないよ」


 案外強かだったようだ。子供の特権を利用して、一緒に連れて行ってもらおうとしているのだろう。
 思わず笑みが零れそうになる所をきゅっと我慢する。共犯の手前、ここで笑ったらライに何を言われるか分からない。


「……切符を買ってきてやるから、動かず此処で待ってろ」


 一瞬だけ俺に視線を寄越したライだが、それ以上何も言わず少女と俺を置いてホームを駆けていく。
 ちら、と横を見ると、しゅんとした顔の少女がライを見送っていた。怒られたショックからか、一人で帰らせるつもりでいるライに対する寂しさからか、放っておけば泣いてしまいそうだ。

 少しでも気が紛らわせるならとフードを脱いで声を掛けた。子供にとって、相手の顔が見えないというのは不安だろう。


「君……音楽好きか?」


 背負っていたギターケースからベースを取り出して尋ねる。
 不思議そうな顔をした少女はこちらをみあげ、それから遠慮がちに一度頷く。
 尾行に巻き込んだ手前、俺に対して後ろめたさがあるのかもしれない。だけどまぁ俺からしたら君とは共犯なんだし、気にすることはないさ。

 ギターケースを鉄柱に立てかけて座り込み、腕とベースの間に小さな身体を潜らせた。




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作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時

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