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落ち着いて状況を確認できる頃には、車は完全に停車していた。この時間帯は車が少ないため、後続車はなかったようだ。追突事故が起きなくて良かったとほっと一息つく。
いや、そんなことしてる場合じゃない。何があった? 車は全く動き出す気配を見せない。隣を見ると、降谷は目を凝らして俺を見下ろしていた。
「……降谷? ここ公道のど真ん中だぞ。止まってたら危ないだろ?」
俺の言葉に反応して、降谷はやっと顔を上げる。どうやら俺を支えたこの手は、咄嗟に伸びていたようだ。左手はバッと引っ込められ、一瞬さ迷うように空で停止したあとギアを握る。クラッチを踏んでエンジンをかけ直した降谷は、険しい表情をしたままギアを操作した。エンジンを吹かせて車が発進した後も、落ち着かない様子でハンドルを握る指を忙しなく動かしている。普段は冷静な男が、何をそんなに取り乱しているのだろう。
まさかストレスだろうか? 不意に嫌な記憶がフラッシュバックするのは稀にあることだ。組織での仕事が辛いならジンに直訴するのも吝かではない。ストレス社会とは断固として戦う意思だ。実際降谷が入ってきてから俺の負担は軽くなったし、お前の為なら休暇くらいもぎ取ってやるぞ、俺は。降谷が担っていた分の仕事は──うん、まぁどうにかなるさ。
「……お前は」
「うん?」
下手に声を掛けても刺激するだけだろうと口を閉じていたが、思いの外早く降谷の方から声が掛かった。何とか思考を繋ぎ合わせることができたのだろうか。ハンドルを叩いていた指は今は止まっている。
続きを促そうかとも思ったが、長い話になるなら車を降りてからの方がいいだろう。また急ブレーキを掛けられても敵わない。アジトはもう目と鼻の先だった。
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作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時