検索窓
今日:15 hit、昨日:19 hit、合計:1,639 hit

ページ ページ38


 ︎︎



 落ち着いて状況を確認できる頃には、車は完全に停車していた。この時間帯は車が少ないため、後続車はなかったようだ。追突事故が起きなくて良かったとほっと一息つく。

 いや、そんなことしてる場合じゃない。何があった? 車は全く動き出す気配を見せない。隣を見ると、降谷は目を凝らして俺を見下ろしていた。


「……降谷? ここ公道のど真ん中だぞ。止まってたら危ないだろ?」


 俺の言葉に反応して、降谷はやっと顔を上げる。どうやら俺を支えたこの手は、咄嗟に伸びていたようだ。左手はバッと引っ込められ、一瞬さ迷うように空で停止したあとギアを握る。クラッチを踏んでエンジンをかけ直した降谷は、険しい表情をしたままギアを操作した。エンジンを吹かせて車が発進した後も、落ち着かない様子でハンドルを握る指を忙しなく動かしている。普段は冷静な男が、何をそんなに取り乱しているのだろう。

 まさかストレスだろうか? 不意に嫌な記憶がフラッシュバックするのは稀にあることだ。組織での仕事が辛いならジンに直訴するのも吝かではない。ストレス社会とは断固として戦う意思だ。実際降谷が入ってきてから俺の負担は軽くなったし、お前の為なら休暇くらいもぎ取ってやるぞ、俺は。降谷が担っていた分の仕事は──うん、まぁどうにかなるさ。


「……お前は」
「うん?」


 下手に声を掛けても刺激するだけだろうと口を閉じていたが、思いの外早く降谷の方から声が掛かった。何とか思考を繋ぎ合わせることができたのだろうか。ハンドルを叩いていた指は今は止まっている。

 続きを促そうかとも思ったが、長い話になるなら車を降りてからの方がいいだろう。また急ブレーキを掛けられても敵わない。アジトはもう目と鼻の先だった。





続く お気に入り登録で更新チェックしよう!

最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している



←前ページ



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (6 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
8人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。