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懐に仕舞ったのは診断書や領収書だろうか。それらは彼の手ずから、報告書と一緒に上に提出されるのだろう。ヘマ踏んだのが例の上司にバレるのは非常に口惜しい。最近はほとんど連絡をとることもなくなったが、この件が伝わればここぞとばかりに冷やかしの電話を掛けてくることだろう。本来の上司は彼なのだから、事実確認も義務のうちなのだろうし。
あの人が俺のキーマンであるが故に、できれば今はあまり関わりを持ちたくない。繋がりは薄い方がいい。いや、いい人ではあるんだ。俺の態度が災いしているだけで。どう転ぶかもわからないのだから、敬遠しておきたいのは事実だけれども。だがしかし、あまり離れすぎるのもそれはそれで──。思考は堂々巡り。自分で自分の首を絞めているような鬱屈とした気分に陥る。
降谷がシートベルトを締めてエンジンをかける。俺は右腕を固定しているブレースが邪魔をして、外側に突き出した腕を畳めない。そのせいでシートベルトは免除だ。考えるのはやめにして頭をシートにくっつける。
車が緩やかに発進した。相変わらず乗り心地の良い車だ。俺は車種やらエンジンやらにこだわりはないので、支給品の余りを使わせてもらっている。年季の入った小型の車だ。とてもじゃないが公用車には見えないだろう。
何の気なしに窓の外を眺めていると、ハンドルを操作している降谷から声が掛かった。
「あの時、なぜ真っ先にこちらに連絡しなかった」
「ん？」
外に向けていた顔を反らして運転席を見た。降谷の視線はまっすぐ前に固定されたままで、こちらを向く様子はない。
多分ホテルでの件のことを言っているのだろう。確かに俺は小枝村の後を追跡している時、安室じゃなくライの携帯に連絡をした。そこに深い意味はない。単に発着信履歴の一番上にその名があったからというだけだ。
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
