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「あのさ降谷……病院に行けってことなら、そう言ってくれればちゃんと行くから」
「黙って着いてこい」
冷ややかな目が、俺を捉えた。ぴしゃりとそう言った降谷は、俺の返事も待たず自動ドアの向こうへ消える。呼び止めようと伸ばした手は、そういえば関節が外れていてろくに動かなかった。だらしなくぷらーんと伸びている。反対の手で腕を押さえて、後を追い中に入った。
いつの間に俺の懐から抜き取ったのか。考えてるだけ無駄だ。保険証を受付に提出している降谷を尻目に歩みを続け、待合所の席に着いた。フードを被ったのは気休めのためだ。
やがて受付を終えた降谷は、俺の隣に腰掛ける。無言が続いた。時折患者を呼ぶ看護師の声と、小さく話をする患者同士の声が遠くに聞こえる。非常に気まずい。隣に座る男に対してここまで気まずさを感じたのは初めてだ。何かを切り出そうにも、周りの目が気になって何も言い出せない。普段から俺に対しては口数の少ない男だ。それから名前を呼ばれるまで、俺たちは終始無言だった。
案内された診察室は完全な個室だった。整形外科と表札の下がった場所に案内され、付き添い人用の椅子が並べられた廊下で立ち止まる。じゃあ、ここで待っててくれと口にする間もなく、降谷がスライド式の扉に手を掛ける。二の句が継げず、中へ入るよう促す声に大人しく従う。俺の意向は全て却下されるようだ。誠に遺憾である。
医師は俺の顔を見るなり、「君はボクサーか何かかい」と嗄れた声で聞いてきた。顔の打撲や傷を見て判断したのだろう。黙って首を横に振る。医師は職業についてそれ以上聞いてこなかった。
脱臼した経緯を怪しまれない程度に省いたり改変したりして伝える。それをカルテに書き込んだ医者から簡単にこの後の説明を受けた。レントゲンやら触診やら時間がかかりそうだ。降谷に付き添ってもらうのが本当に申し訳ない。けれど構わないでくれと言ったところで聞き入れてもらえないのはもう学んだので何も言わないことにした。ここまでされる理由は何となく察している。これが嫌なら次からはきちんと処置を受けろ、ということなのだろう。
リハビリの方法を指導してもらいながら、大人しく処置を受ける。肌着の上から固定用のバンドを巻かれてようやく診察を終えた。
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
