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スコッチからの嘆願に、ベルモットは素直に応じた。元々彼をここに呼び出したのだって、何もその姿形を眺めて思い出に浸る為ではないのだ。ライダースーツから長方形の紙切れを取り出して、スコッチに渡す。
「……招待状？」
「そう。舞台公演の、ね」
受け取った紙を目の高さに翳しながら、しげしげとそこに記されている文字を辿っている。元々はベルモット自身が、シャロン・ヴィンヤードとして招待されていたものだ。舞台関係者用に優遇されたもので、それ一枚で楽屋にも入れるというファンなら垂涎ものの超プレミアチケットだった。生憎その価値がいまいち伝わっていないようで、スコッチは眉を潜めている。
「……なぜ俺に？」
「何処かの誰かさんのおかげで、仕事が増えて行けなくなったのよ。一番いい席を空けるくらいなら、舞台に疎い人間に座らせた方がよっぽどマシ。どうせ暇なんだから、構わないでしょう？」
まさか、嫌とは言わないわよね？ そう続いた言葉に、スコッチはわかりやすく頬を引き攣らせた。YESの返答も聞かず、素直でよろしいと詰め寄っていた身体を引いて優雅に腰掛けたベルモット。最初からNOなんて選択肢はないのだ。何処かの誰かさんこと、先日の仕事で肩を壊したスナイパーもとい、現在無能の烙印を押されたスコッチは項垂れた。
「有難く頂いておく……」
「そうしてちょうだい」
懐に仕舞われた招待状を目で追いながら、ベルモットは手元のグラスを揺らす。空席を作りたくないからというのは半分本当で、半分嘘だ。目敏いベルモットは気付いていた。スコッチは焦っている。
時折遠くを見つめるその目が、決意を固めるようにぎゅっと閉じられるのを何度も見た。その目を、ベルモットは知っていた。
「……まぁ、私には関係の無いことだけど。」
「ん。何か言ったか？」
ため息混じりに呟いた独り言を、スコッチが拾う。余りに小さかったため、内容までは聞き取れなかったようだ。何でもないわと一蹴し、グラスを置く。中身は少しも減っていない。構わずベルモットは席を立った。
「用はそれだけよ。いい？ 絶対観に行きなさい。知人に連絡を入れておくから」
それだけ言うと、ベルモットは鼻を鳴らして出ていった。
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
