私とあなた ページ29
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「それで？ あなた暫く暇なんでしょう？」
向かいのスツールに腰掛けたベルモットに、スコッチが目を向ける。右腕を固定している装具に視線を移し、それから不貞腐れたような顔をしてベルモットを見つめたスコッチ。わざわざ言わせないでくれと言いたげな雰囲気を悟って、くすりと笑う。まるで子供のような仕草だ。ベルモットはスコッチの、こういうところを気に入っていた。
彼は人を読むのが上手い。誰に対して、どこまで砕けた接し方なら許されるか、ちゃんと理解している。それでいて相手のガードをすり抜けた方法で意思表示をしてくるという強かさも備えている。ジンに関しては幾度となく怒らせているようだが、それも彼なりの処世術なのだろう。どちらかというと敢えて怒らせているような気もする。
ベルモット自身も、度々スコッチがジンに怒鳴られたり蹴られたりしている所を目撃しているが、そんな状況でもスコッチは変わらずいつものペースで返していた。あんな真似が許されるのはこの男くらいのものである。他の連中が同じような態度を取れば、最悪命を落とすことになるだろう。本当に怒らせてはいけないタイミングを完璧に読んで回避しているとしか思えない。
時折ジンから手痛いしっぺ返しを食らっているようだが、それだってベルモットから言わせれば相手の反応を見て楽しむいじめっ子と同程度の心理なのである。要するに、あのジンですらスコッチのことを多少なりとも気に入っているのだ。良い意味にせよ、悪い意味にせよ。
一度、それを本人に伝えたことがある。その時スコッチからは「まさか。だって俺、アイツに『ヘマしたら直々に殺してやる』宣言されたんだぞ？」と疑惑の眼を向けられた。まるでベルモットの感性を疑うかのような視線に、思わず「失礼ね」と不満が溢れる。その裏で、流石にそこまでは見抜けないかとしたり顔をしたのは記憶に新しい。女の勘は鋭いのだ。
だって……ねぇ？ まるで熱烈なプロポーズみたいじゃない。
そんな言葉をお酒と一緒に喉の奥へ流し込んだのは、スコッチの昇格祝いの時だっただろうか。
「お嬢さん……そんなに見つめられると居心地が悪いんですが」
「あら。それは悪かったわね」
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
