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男の手から携帯がこぼれ落ちる。ごきんと、右の肩を中心に身体の内側から音が響いた。関節が外されたのだと頭が察知したのは、痛みに襲われてからずいぶん時間があった。堪えるため噛み締めた唇から血が流れる。あぁ、利き腕なのに。今後しばらくは使い物になりそうにない。一発撃つたび肩が外れる狙撃手なんてダサすぎる。乾いた笑みが喉から漏れるのを聞いてか、苛立ち混じりに頬を殴られた。俺を痛めつけて情報を引き出そうなんて、そりゃ笑うだろう。そんなことで口を割るようなら、あの時死ぬこともなかった。組織の一員どころか公安にもならず、きっと俗世で平和に生きてたさ。
「どうした顔のない男。随分余裕じゃないか」
唄うように告げた皮肉たっぷりの言葉に、焦りの色を濃くした男が大きく舌打ちをする。ビンゴだ。この男が小枝村で間違いない。皮肉が効いたのか乱暴に襟を掴まれ、床に投げつけられた。強打した鼻から血が伝い、カーペットを赤く汚す。小枝村の手にある情報は極わずかだ。貴重な情報源たる俺が口を割らない限り、何処の誰からの刺客かもわからないだろう。それほど敵が多いのだ、この男は。こうしている間にも、いつこの部屋に攻め込まれるかわからない恐怖に全身を支配されているに違いない。
肺を潰そうとしていた圧迫感から解放され、何度か咳き込む。小枝村はデスクドレッサーの引き出しから手のひら大の銃を取り出した。最低限の護身用だろう。対銃火器用の装甲を破るには心許ないが、人間の頭蓋くらいなら簡単に砕くほどの威力はある。傍目に見えるトランクにはもっと物騒な武器が仕舞われているのだろうか。
「言え、君の他に何人いる……！！」
「さあね……十人かもしれないし、もっと多いかも」
身体を起こして、右肩に負担がかからないよう楽な体勢を取る。背中に冷たい感触を感じながら、小枝村と向かい合うようにして床に腰を下ろした。直後眉間に銃口が押し当てられる。恐怖は感じなかった。賭けるものが自分の命一つだけというのが、どんなに気楽か。俺のせいで誰かが死ぬより、よっぽどマシだ。寧ろ追い詰められているのは小枝村の方だった。銃を握る指がカタカタと震えている。
「撃てるもんなら、撃つといい。銃声がすると同時に、この部屋の場所が他の連中にも伝わるだろうが」
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
