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「おや、誰かと思えばさっきのお兄さんじゃないか」
痛みに呻く暇を与えるつもりは無いようだ。頭から降ってきた声は、愉悦に歪んでいた。先ほどのはっきりしない物言いとは違い、やけに抑揚のある声が響く。指が肘から外れ、手首を掴まれた。背後で扉の閉まる音が聞こえる。外界から遮断され、部屋には俺と男の二人きりだ。背中から体重をかけられ、肺が圧迫される。掴まれた腕が背中に回り、痛めたばかりの肩からごり、と嫌な音が聞こえた。関節を外すつもりだろうかと思ったが、それ以上腕が上がることはなく、一番痛みの走る位置で固定される。
「まさか、君のような若い人が私を殺しに来るとはね……」
「っ、なんのことか、わかりかねるな……。俺は、貴方が取り忘れた釣り銭を届けに、来ただけなんだが……」
「そんな軽口がいつまで続くか」
ポケットを無遠慮に漁られ、不快感に身を捩りたくなる。抵抗しようにも、動こうとすると肩に鋭い痛みが走って呻くことしかできない。すぐに携帯電話が男の手に渡り、それを見送ることもできずに顎が床に触れた。
履歴にはライの番号が残っていることだろう。だが、電話帳に登録するだなんて馬鹿な真似はしていない。メールだって重要な内容のものはすぐに消去しているし、仕事に関するメールはあえて詳細を欠いた記述で送っているため、目を通したところで誰も疑問に思わないだろう。だが、この場合は別だ。
「この『見つけた』ってのは、誰に送ったメールだい？」
見えるように、携帯が俺の目前に突きつけられる。先程ライに送ったばかりのメッセージだ。送信時刻は数分前。こればかりは誤魔化しようがなかった。返答を急かすように腕にこもる力が増した。関節が悲鳴を上げている。はっ、嘲笑するような音が喉から漏れた。締め付けられた肩がぎり、と痛む。痛みを逃がすように、息を吐く。
「友人が探してた、タバコの銘柄を、ね……」
「馬鹿馬鹿しい……。この後に及んでそんな戯言を」
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
