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ライのサングラスは顔を覚えられにくくするためのものだろうから、それに倣って俺はパーカーのフードを被った。……何か忘れてる気がする。
「……今日、何かあったっけ」
「仕事以外にか？ これといって思いつかないが」
「だよな……？」
うーん、と唸りながら空を仰いで、思考を働かせる。
気のせいかと視線を落とすと、自然に視界はホームの向こう側を映し出して──あれ？ どこかで見た顔が、こちらを見ている。
あんまり凝視するのもどうかと思いすぐさま視線は逸らしたが、一瞬見えた顔が徐々にかつての記憶を呼び覚ましていく。
──俺が死ぬほんの少し前、ライ自身の口から彼の正体がFBIの赤井秀一だと聞かされたとき、さっき見たのと同じ顔が浮かんだはずだ。
ライを秀兄と呼ぶ、健気な女の子。そうか、あれは確か今と同じ頃の事だった。前回と要所要所が異なるため気付かなかったが、前に一度起きたことならまた起こる可能性だってある。
もう一度ちらりと少女を見れば、彼女はこちらの視線に気付いたらしい。小さな手を口元まで持っていき、しぃっと合図を送ってくる。
多忙なライのことだから、きっと彼女はなかなか会えなくて寂しい思いをしているに違いないだろう。自分の身体でライから見えないよう死角を作り、親指を立ててOKの合図を返す。
よし、今から俺と君は共犯だ。少女はライの視界に入らないようにホームの端にある階段に向かう。そうしている間に到着した電車に乗り込む。
少女は出発しそうな電車に駆け込んだようなので、隣の車両へ続く扉をさり気なく身体で隠してつり革に掴まった。
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
