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念のため、ライには俺たちが泊まっている部屋の位置を伝えておいた。
ホテルに戻った俺を出迎えた安室が、遅かったですねと声を掛けてくる。先ほどの駆け引きについて、彼に言うべきだろうかと一瞬迷った。だが、それを伝えると事態がややこしくなるだけだと結論付けて黙っておくことにする。もし互いの協力が必要になれば、その時に伝えればいいだろう。曖昧に笑って、スナイパーとして相談することがあったと返せば一応は納得したようだ。
ライからの連絡に備えてどちらかは起きている必要があったので、寝ずの番は俺がしようと申し出た。訝しげな視線をこちらに向けた安室は、おもむろに俺の身体を突き飛ばしてベッドに転がす。危うくヘッドボードに置いたままのコーヒーが零れるところだ。非難しようとした俺を他所にチェアに腰掛け、何処から取り出したのか分厚い本を開いてページを捲り出したので、大人しくベッドに突っ伏した。これは言外に俺が起きているからお前は寝てろということなのだろう。よっぽど信用がないのか、それとも単に役割を分担しようと思ってのことなのかはわからない。でも俺は別に眠くない。仕事がない間これでもかっていうほど寝てたんだ。そんなことに時間を割くくらいなら、銃の整備をしていた方がいくらか有意義な気がする。
壁時計が秒針を刻む音と、時折ページを捲る音が聞こえている。タバコを吸おうにも奴はゴミ箱の中で無惨な死体と化している。そこらの自販機で買ってきてもいいが、この部屋で吸おうとするならそいつもまた朽ち果てた姿でゴミ箱の中に眠ることになる。暇潰しにホテルのパンフレットを手繰り寄せて開いた。それには各フロアにある共有スペースの案内が書かれていて、喫煙所もそれぞれに設置されている。タバコの自販機はその付近においてあるようなので、吸うならここで買って、喫煙所に行った方がいいだろう。
ちらりと横目で安室を眺めた。相変わらず難しそうな顔で本のページを捲っている。テーブルに置かれた缶コーヒーは開封されていないようだ。異物混入を警戒して、という訳ではないだろうだから、単純に飲む気分じゃないか忘れているかどちらかだろう。微糖と印字されたそれを見て、口がへの字に曲がった。よし、もうやめよう。あのようなヘマは二度としてたまるか。
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
