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「それら一つ一つは本当にさり気ないもので気がつかなかった。先ほど、ようやく繋がったくらいだ」
それで、試しにカマをかけたら見事に引っかかったってわけだ。手口が追い込み漁さながらで、俺は心底肝を冷やした。もう二度とライにコーヒーを差し入れたりしないと固く誓う。
「さて……俺の正体を知って尚、組織に漏洩することなく胸の内にしまってくれている君の正体を、聞いてもいいか」
脱力していた表情筋に力が戻る。膝のあたりに埋めていた顎を持ち上げると、赤井と目が合った。FBIだと名乗った彼赤井には、結局自分の正体を明かすことはなかった。死ぬ間際に見た光景は、鮮明に残っている。心臓を撃ち抜いても数秒は生きていた。一番最後の映像だから、より強烈に脳に焼き付いているのだろう。目を閉じて意識すると、くっきりと瞼の裏に浮かぶそれは、閉じている瞼をもう一度閉じたくなるような、心臓を潰されるような感覚を味わせる。
それを今一度確認して、それからゆっくり息を吐いた。あの時、俺が公安からのスパイだということは恐らく組織にバレていた。それがどこから漏れたのかはわからないが、少なくとも赤井がそれを漏らすことはないだろう。俺だけが赤井の素性を知っているのも不公平だし、信用にかける。あの時すでに漏れていた情報くらいなら、今ここで赤井に漏らしたところで何の支障もないんじゃないだろうか。
そこまで思考したところで、何故俺に正体を打ち明けようと思ったのかと聞きそびれていたことを、ついでのように思い出した。尋ねようかとも思ったが、質問に質問で返すような真似を、そう何度も続けるような不誠実な真似は避けたい。
何度かさ迷うようにそれた視線が、結局は元の位置に定着する。……この男には、本当に、何一つ勝てる気がしない。
「……本名は名乗れない。それでもいいか」
「構わない。」
「俺は日本の……公安だ。それ以上は、言えない」
緊張と、少しの安堵が同時に襲う。肩の荷が少し降ろせたような気がした。あの時あの屋上で明かせなかったことを一つ、告げることができたこと。罪を濯いだような気分だ。
俺の言葉を噛み締めるように赤井が何度か頷いた。
「……十分だ、スコッチ。礼を言う」
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
