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 一番の問題は、何故その話をライが持ち出したかということだ。おそらくライは確信している。俺がライの身辺に詳しいということを。そして、俺がライの素性を知っているということを。先程吐露していた警戒心を感じない理由。その裏付けがされた今、ライの──いや、赤井秀一の眼前には、当惑顔の俺が立っていることだろう。


「これだから……頭のイイやつは」


 小さな声で恨み言のように呟いて、それからふっと息を吐いて笑った。この距離では聞こえているかもしれないが、構うものか。取り繕うのも面倒だ。


「彼女には何も言ってないし、何かをするつもりもない。君に関してもそれは同じだ……赤井秀一くん」
「やはり知っていたんだな、俺の正体を。そしてもちろん、俺がどこの国の犬か、ということも。……だろう?」


 勝利を確信した赤井秀一の口角が上がった。お前が教えてくれたからな、とは言わずに曖昧に笑みを向ける。

 変に疲弊している。一声断りを入れて腰を落ち着かせると、それに倣うように赤井も少し距離を開けて座る。彼を纏う空気は、俺が自供した瞬間から、いつになく柔らかくなっていた。俺が敵ではないと確信しているようだ。そっちの仮面は剥がされたのだから、当然か。
 彼の質問に答えてやりたいのは山々だが、それよりも先に俺の疑問に答えてほしい。


「……何故わかった?」
「最初は気づかなかったさ。だが君の動きは、時々俺を知っているように思えたんでな」


 指折り数えて一つずつ提示されていく、俺のミス。思わず顔を覆いたくなる。いつだったか、ライに言った失言から、初めの顔合わせの時のこと……コーヒーの好みを把握していたことまで持ち出された時にはさすがに目を丸くした。言われてみれば確かに、ライに差し入れていたコーヒーは全てブラックだった。喫茶店でどうこうというのは覚えてないのでよくわからないが、初めて行ったあの店でも俺はそんな素振りを見せていたらしい。

 潜在意識や刷り込みというものだろうか。意識しないところで墓穴を掘っていたとは。
 頭を抱えた俺に、大丈夫か? と声が降ってくる。内情を悟ってか、笑みも含まれていて余計に恥ずかしい。



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作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時

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