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「話してくれ」
「……初めに会った時から、疑問に思っていたんだ。君のような男が何故、この組織にいるのか。君の二面性を深く探れば探るほど、その疑問は一つに集約しているように感じた」
言葉が途切れた。先程まで流していた汗が夜風に当たって冷たい。そのせいだろうか。ぞわりと肌が粟立って、思わずぶるりと身体を震わせた。視線は交わったまま、切れることはない。逡巡しているのは目に見えて分かっているのに、それでもその目はまっすぐ俺を捉えている。そういうところは、ずっと変わらないんだなと思った。ライの思考の波をせき止めたくなくて、言葉にはしない。ただ、少し笑みがこぼれた。屋上を照らしていた僅かな蛍光灯の光が途切れ、一瞬の闇の後にまた光が灯った。
「時折共に仕事をこなして、少しは君のことを知っているつもりだ。だが、時を追うごとにそれ以上に見えない部分が色濃くなっていくようにも思えた。そこがずっと不思議だった。思えば、……君からは、警戒心というものを感じない。だが、君と俺との間には確かに壁がある。それが俺の秘密によるものなら、それを解体するのも一つの手だと思う」
不自然な呼吸音が喉から漏れた。小さな音だったが、静かな屋上では大きく聞こえる。ライには聞こえただろうか。それでも、それ以上動揺を表に出すことはしなかった。二面性だとか、ライの秘密だとかを知らぬ存ぜぬで通すなら、ここでアクションを起こすわけにはいかない。秘密を知っている俺が、それを知らない俺を演じる為には動揺に気づかれてはいけなかった。
それから、自然さを装って呼吸を整えた。ライの言葉一つ一つを辿る。壁……か。その表現はあっているようで少々違う。壁というものは互いの姿を隠してしまうものだから、一方的にライのことを知っている俺には当てはまらない。
俺は線を引いているのだ。壁なんかよりちゃちで、その境界は曖昧に思えるけれど、それを超えることはできない。その線から一歩離れたところでにこにこ顔の俺が立っている。線を越えずとも手を伸ばせば触れられる位置だ。いい子の振りをしたその口で巧みに相手の気を引いて、視線を表側そちらに集中させる。その背に隠したものを誰にも気づかれないように。
そうして引いた線の向こうで、ライが目を伏せて顎に手を当てた。俺とのあいだにある、ない壁を解体する作業を、頭の中で構築しているのだろうか。
「……いや」
「え？」
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作者名：タイガ | 作成日時：2023年8月28日 20時
