引き際を誤る ページ1
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下見の予定日まで、ライと安室は片付けなければならない別の仕事があった。
一方の俺は何もすることがなくて暇していたので、なにか手伝おうかと提案したところ安室には冷たい視線を向けられた。
「同じ組織の人間といえど、そう簡単に仕事内容を明かせるわけがないでしょう」
何やら含みのある言い方だった。
一応ライにも尋ねてみれば、安室のような直球を投げることはなかったが「久し振りの休みだろう。こちらの事は気にせず、ゆっくり休め」と遠回しに敬遠された。
なので俺にはすることがない。
手伝おうかという提案は、二人は連日働き詰めなのに俺だけ休むなんてという申し訳なさからではない。俺よりデキる男が来てしまったため仕事が持っていかれているのは確かだが、それで敵対心を燃やすほど子供じゃないし、寧ろ負担が減って助かっている。
では何が不満かというと、正直休みなんてもらっても暇で暇で枯れ落ちてしまいそうになるだけで、ちっとも楽しくないということだ。
それくらいなら仕事のほんの一部を肩代わりして、話し相手になってもらう方がよっぽどいい。ベースをかき鳴らすのは好きだが、だからといって一日中弾いていては飽きてしまうのだ。
そんな俺の気持ちを汲んでくれる人間はこの組織にはいなかったようで、ジンに仕事をせびりに行けば拳銃の底で頭に一発入れられ──手加減はしてくれていたらしいから流血沙汰にはならなかったが、それでもだいぶ痛かった。懲りずに他の人間に声を掛けたが、ベルモットには暇つぶしにレディを誘うなんて随分と失礼な男ねと呆れられ、一日中研究室に篭っている若年の女史には邪魔よと一蹴された。
仕方がないので休みの間は干物のように過ごした。案外光合成も悪いもんじゃないと思考してしまった時には、自分は労働してないと堕落してしまう駄目人間なんだなという結論に至った。
うっかり零に「暇という死神に殺される」なんてふざけたメールを送りそうになったが、仕事をしている人間に向かって暇で暇で仕方がないだなんて愚痴を言えば嫌味にとられるだろうし、一層白い目を向けられるのも気が引けるのでやめた。俺だって人間なので好意を寄せている人間に冷ややかな目で見られれば流石に傷つく。
そうやって俺は休みの殆どを寝て過ごした。──いや、寝過ごした。
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作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時