夏のあの日 2 ページ41
たったそれだけの会話で何かを感じ取ったのか、お母さんはそれ以上何も言わなかった。火の後始末だけは気をつけなさいよ、と言われたと同時にインターホンが鳴る。
「こんばんは。夜分遅くにすみません」
「ゆづくんこんばんは。いいのよそんな。Aのことよろしくね」
優しく微笑んだゆづくんが、いつからか低くなった声ではい、と返事をしてあたしの手を取った。夜と言えど涼しいとは言えない夏。繋ぐ手が汗ばんでくるのを気にして力を緩めると、ゆづくんがふとその手を見下ろした。
「あ、ごめん。暑いよな」
「ううん、汗ばんでるから、ゆづくん嫌かなって」
「Aこそ嫌でしょ？」
ぱっと離れてしまった手に寂しくなって、握っててって言おうとしたけれどそれは言葉にならなかった。近所の公園には誰もいなくて、少ない街灯に照らされた中にぼんやりと遊具が浮かんでいる。
昔からゆづくんと遊んでいた公園。幼稚園の男の子にいじめられて泣いていた時も、ジャングルジムに登って降りられなくなってしまった時も、ゆづくんが助けてくれた。
大きくなって遊ぶことはなくなったけれど、帰り道にブランコに座って他愛もない話をしたり、お母さんと喧嘩して一人でここに蹲っていた時に、ゆづくんに諭されて一緒に家に帰ったりと、想い出は数えきれない程ある場所。
「よし、やろっか！」
にっと笑ったゆづくんがろうそくに火を灯す。がさがさと袋から花火を取り出して、側にあった水道からバケツに水を汲んだ。
「どれがいい？」
「…ねずみ花火」
「出た！最初からそれいくんだもんなぁ。Aって変なの」
「変じゃないもん！昔からゆづくんとねずみ花火取り合いしてたから、最初にやらなくちゃって思っちゃうの！」
「もう取らねぇよ、子供じゃないんだから」
子供じゃない、その言葉は何だか胸に強く突き刺さった。そう、もうあたし達は聞き分けのない子供ではない。まだ子供だけれど、あの頃のように何も考えずに無邪気に笑っていた時とは違う。
鼻の奥がつんとするのを何とか堪えて、あたしはねずみ花火を手に取った。花火に照らされるゆづくんの顔が綺麗で、思わず見惚れてしまう。顔をくしゃくしゃにして笑う姿をもう近くで見ることはできないし、花火を握る綺麗な手にあたしのちっちゃな手を握ってもらうこともできない。
楽しいはずの時間を心底楽しめない自分が、憎らしかった。
「…わぁ！ちょっとゆづくん危ない！」
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はなこ(プロフ) - るりさん» 初めまして！コメントありがとうございます！そう言っていただけると本当嬉しい限りです(；＿；)シーズン始まってオータムクラシックを終えここからだなぁと楽しみです♪更新も近々したいなと思っているのでよろしくお願いします(´>_<`) (2015年10月21日 21時) (
レス) id: 69df3ca31c (このIDを非表示/違反報告)
るり(プロフ) - はなこさん初めまして。書かれるお話がどれもツボで、何気にその時の結弦くんとリンクもしているお話も多くていつもドキドキニヤニヤwしながら読ませていただいてます！シーズンが始まりワクワクするプログラムで幸せを感じてます！またお話楽しみにしてます（＾ν＾） (2015年10月21日 18時) (レス) id: d42f8a3817 (このIDを非表示/違反報告)
はなこ(プロフ) - ゆったんさん» いつもありがとうございます♪少しでも癒しになったならそれは嬉しいです！色々と大変なこともあるかもしれませんが、無理なさらずに(>_<) (2015年9月13日 0時) (レス) id: 69df3ca31c (このIDを非表示/違反報告)
ゆったん - はぁ〜、今回の話、すごく癒されました！最近あまりいいことがなかったので、優しく諭されているような気分になりました。ありがとうございます！次も楽しみにしてます (2015年9月10日 23時) (レス) id: 56a839c14f (このIDを非表示/違反報告)
はなこ(プロフ) - りまさん» りまさん、コメントありがとうございます！お優しいお言葉までかけていだき本当ありがたい限りです(；＿；)そうなんですよね〜！こんな風に甘やかされたい。。(笑) (2015年9月7日 0時) (レス) id: 69df3ca31c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：はなこ | 作成日時：2015年5月25日 23時
