生まれた世界に乞う弐 (ページ10)

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六十ページ10

時は江戸時代中期まで遡る____。

私が産まれ育った村は隣村よりも貧しく、餓死して干からびたような死体があちらこちらに転がっていた。
私はその時から鬼だった気がする。
元は人間であったかは定かではない。

その時から頭の中にあったのは鬼舞辻無惨という鬼の存在だ。
記憶の中では会ったことは無い、それでもなぜか知っていた。

私の母の名は空木(うつぎ)、父は名がなかった。
私と父の食事は雨水や僅かに採れる作物だが、母の食事は、父の血のみだった。
そして私と父は日光を浴びても死ななかったが、母は違った。
少しでも日光を浴びれば皮膚が焼けただれ、獣のような唸り声をあげるのだ。
後から知ったのだが母は鬼だった。

気づけば母は消え、父も死んでいた。
私だけ、私だけが変わらず生き続け、村の人間は全員死に、景色と季節だけが過ぎていった。

私だけが死なずに周りの人間だけが死んでいく。
私は一人だった。
時が経つほど飢えは強くなり、私は人間の食べ物だけでは満足できなくなっていった。
寂しさと比例する食欲、気づけば私は人間に手をかけ鬼にも手をかけ暴虐のかぎりをつくした。

「空木の娘…！」

ある日、私の母を知る鬼に出会った。
名前は知らないけれど、目に下弦と書いてあった気がする。
私はそいつの頸と胴体を切り離してやった、鬼血術とかいう卑しい能力を使わないように。
そいつはすぐに命乞いをして話した、私の母の存在と、その母を助けた女の存在を。

母は空木、珠代と言う女が呪いを解き、人の血のみで生きる鬼だと。
恨めしい、私はこんなにも空腹なのに、あの女は私を置いて飢えから逃れていたのか。

悔しい、苦しい、辛い。
私だって苦しまずに行きたかった、飢えをしのぐ術が欲しかった。
私はすぐに珠代を探したが、それは徒労に終わった。

珠代が死に、鬼舞辻無惨が死に、私以外の鬼が滅んだからだ。