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「兄ちゃん。俺、春から一人暮らし、しようと思う」




涼介が高校3年生に進級してすぐの頃、
ついに恐れていたことを言われた。

不慮の事故で両親を失い、突然二人きりの家族になった俺たち。

親戚の家に行きたくないと、
兄ちゃんと離れたくないと、

泣きじゃくる涼介を育てると決意した21歳。

両親の遺してくれた貯金を切り崩しながら、
これからのことも考えて、ある商売に手をつけた。

そう、体を売る仕事。



大学に通いながらのその仕事は大変だった。
だけど不思議と辛くはなかった。
だって家には涼介がいる。愛おしい涼介がいるから。

涼介のためなら、なんだって出来る。地獄にだって行ける。


そんな俺らを支えてくれた一人に薮がいる。
彼は俺らの幼馴染で、昔から俺のことは可愛がっていたくせに、涼介のことはひどく嫌っていた。

そんな薮に何度も仕事をやめろと言われた。
でもやめなかった。
ならせめて、そばにいたいと言われて彼を受け入れた。
俺の時間を買うと言って聞かなかった薮は、お金だってくれた。

いつのまにか俺たちの関係は、
幼馴染から客に、変わっていたのだ。


薮は俺よりも俺の気持ちを知っていた。
俺の涼介へ向ける恋心に、誰よりも早く気づいていたんだ。

だからこそ涼介を嫌っていた。

なぁ、薮はいつから俺の恋心に気づいてたの?


「俺は薮を許さないから」
「あぁ、許してもらおうと思ってねぇよ、」


涼介が心に傷を負った次の日、
俺は薮を呼び出した。


「これ、今まで貰ったお金。返す」


そう万札の束を突き出せば、ひどく傷ついた表情をみせる薮。


「今まで薮に甘えてごめんね」


結局、薮はお金を受け取らなかった。
最後まで謝罪の言葉は聞けなかったけど、彼の背中がごめんと言っているように見えた。


ねぇ、薮。全部、俺の為だったって分かってるよ。
薮から見たら涼介のせいで俺が傷ついてるって、自由になれないって思ったんでしょう?

でも違うから。

俺は涼介がいてくれるから生きている。
涼介なしでは生きていけないのは俺の方なんだ。

だからお前のことは一生許せない。
薮も俺のことなんか忘れて、早く幸せになってね。









「そっか、春から大学生だもんね、賛成だよ」
「ありがと、兄ちゃん」



ちゃんと笑えてたかな、
ちゃんと「兄貴」になれてたかな、


ちゃんと最後まで、
涼介の大好きな兄ちゃんで、いられたかな。





その日は枕に顔をうずめて、
声を殺して泣いた。

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作者名:939 | 作成日時:2017年9月29日 12時

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