検索窓
今日:3 hit、昨日:19 hit、合計:15,848 hit

百八話/蛇に睨まれた蛙 ページ8

なんとなく良い雰囲気が場を満たしていたはずだった。そこに堂々と笑顔で入ってくる男、太宰はまるでーー、


「悪魔……」


口の中だけでそう呟き、Aは明らかに嫌そうな顔をつくる。
全く、何の為に来たのか。早く用を済ませて帰って欲しいものである。


「太宰さん!もう、お風呂までついてて……本当に良い宿を有難うございます」


「厭だなあ、敦君。この位、先輩として当然だよ」


太宰はドヤ顔で敦に応じる。
少し大袈裟にも感じるが、孤児院育ちの敦に現在の社員寮は相当良い宿のはずだ。
そしてそれはAにとっても同じ筈でーー、


「なのになんですか……何か用でも?」


「そうなのだよ!実はねーー」


若干刺々(とげとげ)しい物云いになってしまったことを反省しつつ、Aは太宰の声に耳を傾ける。ーー瞬間、背中を悪寒が走り抜けた。


「ちょっ、と……待って下さい」


「いいや、待たない!聞いてくれ給え!」


「厭、厭です、死にたくない……ちょ……っ」


耳を塞ごうとするAの白い手を太宰が掴む。
暫く無言で攻防戦が続くが、太宰も男。それに加えて腕の筋肉量が平均の女子並みかそれ以下のAが敗北を喫することとなった。


「実はねー?」


本気で厭がるAの反応を確かめるように太宰は目を細めた。獲物を(ねぶ)る肉食動物のような瞳がAを捕える。


「ーーーー」


居心地の悪さを味わい乍ら(たす)けを求めて敦の方を見れば、彼は視線をうろうろさせてあたふたとしていた。Aが太宰のことを苦手なのを知らなかったのだろう。その反応は当然だ。


「ーー。Aちゃんを一寸だけ貸してほしいのだよ」


「ーーーー」


「貸す?」


悪寒の正体を告げられ、Aは自分の直感は間違っていなかったのだと脱力する。ーー正直云って間違っていて欲しかった。
一方で太宰は肩を落とすAの手をぱっと離すと、「そうなのだよ」と敦の問に答えた。


「今、猫の手も借りたい状態でねーーだからAちゃんに頼もうかなーと」


「どういう意味ですか!」


一応現在は深夜、日付も変わろうかという時間帯だ。故に声量を控えめにしてAは叫ぶ。


「大体、貸すって……」


「言葉通りの意味だよ。だから、私に借りられてくれないかい?」


そう云って目を細める太宰にAは後ずさった。

百九話/星、或いは月か→←百七話/お風呂



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
111人がお気に入り
設定タグ:文スト , BSD , 原作沿い   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。