百三十四話/若さ故の青 ページ44
「ーーーー」
あまりの騒音具合に反応が遅れた。太宰と国木田に続けて、Aと敦も窓に駆け寄る。
慌てる敦に小動物のように着いていく鏡花。
彼女の整った横顔に抱く不要な感情を捨て置き、今は視線を外へ。
そしてーー、
「わ……っ」
轟音の正体をそこで見た。
それは、空を飛ぶ行為には必要不可欠なプロペラーーから発される回転騒音。
本で目にしたことしかないが、空を飛んでいる物体はヘリコプターと呼ばれるものだ。
記憶が正しければ、ヘリコプターとは中に人を乗せて空を飛べる代物だったはずだ。
「……高度が低すぎる、気がする」
事故、だろうか。運転手とAたちの目線が同じくらいのヘリは明らかに平常ではない。
「そうだね。着陸する
「……太宰さんはあまり驚かないんですね」
「えー、Aちゃん程じゃあないよ。ヘリなんて見たの、初めてだろう?」
「いえ、本で見た事あるので」
「そういうことじゃあないんだけど……」
苦笑気味の太宰と軽口を交わし、強引に平静へと心を引っ張る。
「ーーーー」
頬を引き攣らせた敦。Aが彼の表情を目に焼き付けている間、ヘリは狭い道路へと着陸を成功させていた。
ヘリの扉が開く。何せ、目立つには十分の巨体だ。ここら一帯の人間の視線を一身に浴びて、男が姿を現した。
金髪は染めたものではなく地毛か。
右に流された前髪、上質な礼服はさながら貴族のようだ。
その、男の姿には見覚えがあった。
彼が、
アタッシュケースを片手に前を行く男ーーフランシス・フィッツジェラルド。その後ろに、青空に映える赤毛を二つの三つ編みに束ね、頭を白い花で飾ったワンピース姿の少女と、礼服を着こなす小太りの男が続く。
「ーーーー」
フィッツジェラルドがふと、此方に視線を向け、それから顔を上げた。
一切の迷いが見られないその視線は、男が探偵社に来訪してきたのだということを如実に知らせていた。
一瞬、彼の緑がかった水色と、黒紫が絡んだような気がした。瞳を細めて、Aの方を見ている。
錯覚かもしれないが、此方に注意を注いでいるように見えたのは事実だ。
それが、何となく嫌だった。
「ーーーー」
自然に、何も考えず、敦の線の細い背中に手を乗せた。
一瞬だけ驚いた顔をして、けれど彼は何も云わずに受け入れてくれた。
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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時