百三十一話/変わった女の子 ページ41
重ねるが、Aと太宰は似ているだけで同じでは無いと思う。何度主張しても頑なにそれを認めない太宰は、Aをどんな風に見ているのか、謎である。
｢ーーーー｣
回想終わり。敦を納得させて満足気な太宰を見やり乍ら、Aは溜息をつく。
｢ちょ、ちょっと、Aちゃん？聞いてる？僕の髪触っても良い事ないよ？……聞こえてる？｣
背後、いつの間に移動し、敦の髪を弄るA。矢張り近すぎる距離感にどぎまぎする敦だが、引き剥がそうとはしない。
赤く染まった頬。躰をわなわなと震えさせ、衝動をぐっと我慢している。
そんな敦に、庇護欲が刺激されてーー、
｢うーん、聞こえてないよー。あ、この髪少し傷んでーーぁ｣
先ずは軽口を交換し合おうとしたところで、Aの躰に手が回された。
敦成分を堪能していたAは、その感触に対応が遅れる。
そのまま為す術なく後ろに引っ張られ、敦から引き離されてしまった。
｢ちょっと！私と敦くんが楽しくお話してるのに、急にーー｣
大方太宰辺りだろう。そう思い、文句を言い乍ら振り向く。
｢鏡花ちゃん？｣
｢……急になんすか、ですか……鏡花さん｣
しかし、予想に反してそこに居たのは泉鏡花だった。
敦とAの声が重なる。
驚いて噛みまくる、そんなAを彼女は無感情で覆った瞳で見ていた。
｢貴方はーー｣
鏡花が発したそれは静かで小さくて、けれど不思議と耳に届く声だった。
無理解を強制させる瞳。だが、その程度ではAの目は誤魔化せない。何せ、人との会話や友好関係を築く行為はAの専売特許なのだ。人の感情の機微などには敏感だと自負もしている。
｢ーーーー｣
無感情の裏に隠されているのは敦への感情。それも特別な。意識的なモノなのか無意識なのか。恋愛か親愛か、或いはそのどちらでもないのか。それは彼女自身にも判っていないのだろう。
唯、彼女がAを敵か否か見定めていることだけ理解して、
｢私は永井A。その、もし良かったら……仲良くしよう？｣
磨かれた眩しい笑顔に反して声は震えていたことーー本当は、知ってた。
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作者名：女中 | 作成日時：2022年6月11日 11時
