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百十六話/一夜の過ち ページ26

ーー永井Aの朝は早い。


「……ん」


なんていう、小説でよく使われているワンフレーズを思い浮かべ乍らAは起き上がった。
ーー昨夜、Aはポートマフィアの地下牢から逃げ出した。その後、本当は今すぐにでも敦に会いたかったのだが、刻は日付もとっくに変わった時間だった。故に、彼に会うのは控えてーー、


「え……あれ?」


そこまで考えたところで、Aは違和感に気付く。
敦とAは同室に住んでいるのだから、再会を控えるなんてことは不可能だ。
微かに部屋の灯りが見えたので、生存確認できたところまでは覚えているが。


「ということはーー」


横にいるそれ(、、)に嫌々意識を向ける。


「……つくづく期待を裏切らない男ですね」


案の定、自分の横で眠っている太宰に悪態をつく。
幸い、服は脱がされていなかったので、彼と一夜の過ちを犯したという恐ろしいおぞましい妄想には待ったがかけられた。

此方側に背中を向けているのは、気遣いの表れか。それを見て、Aの中の太宰の評価に、『判りにくい男』の称号が追加された。


「ーーーー」


益体の無いことを考えていると、ふと敦に会いに行こうという考えが頭に浮かぶ。
記憶の中の敦に話しかけるのも飽きてきた頃だ。
矢張り本人と話すのが一番。癒し力は段違いである。
そうと決まれば善は急げ。
太宰を起こさないように細心の注意を払い、しかし猛速で身支度を済ませてそっと部屋から抜け出した。


「あの部屋時計が無い……ありえない」


太宰が時間にルーズな事実を目の当たりにした。
あの男と仕事を行う国木田。彼の心労を考えるだけで胃が痛くなる。


「それにしても人が……」


ふと外の方へ目をやる。そこで漸く異変に気付き、Aは走り出した。
風で折角綺麗に整えた髪が崩れるが、構っていられない。
逸る心、もつれそうになる足を落ち着かせ、それでもAは更に足を早めた。
走って、走って、走ってーー。


「敦く…………え」

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作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時

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