二十七話/戦いはもう始まっている ページ27
服に着いた砂を払う。
「ーーーー」
乱れた髪を整える。
「ーーーー」
仕上げに前髪をーー、
「ーー。はぁ」
何をしていても思考に侵入してくるそれに、口の中で小さく溜息をついた可憐な少女ーー永井A。
その溜息は前を歩く男二人、太宰と国木田による口論が原因であった。
少し、ほんの少しだけ耳を傾けてみれば、
「ーー全く、お前は何故いつもこうなのだ!俺の手帳にはこんなこと書いておらん!!……人の話を聞けこの唐変木!!俺の……俺の手帳にはこんなこと…!」
と、この短時間で可哀想なくらい「俺の手帳にはこんなこと書かれておらん!」と連呼する国木田。
一方で、太宰はそんな国木田の文句を清々しいほど堂々と受け流したり、「誰が国木田くんにこんなことを……」と明らかに突っ込み待ちの発言をしたりと多種多様な反応を見せていた。
傍目から見れば、そんな二人の会話は漫才にしか見えないし聞こえない。
だが、よくよく観察すれば本人は素で会話しているのだと分かる。
ーー勿論、それは国木田に限った話だが。
「ーーーー」
「わぁ、凄く綺麗な瞳ですね!」
自分が現在置かれている状況にもう一度嘆息しかけたA。その瞳を覗き込んで賞賛の声を上げたのは、気絶した敦を背負って隣を歩く金髪の少年だった。
確か、名を宮沢賢治と云ったか。
「ーーありがとうございます」
「Aさんの瞳、倉庫の中では黒に見えてたんですよ?……なのに、今は紫に光って見えます!矢っ張り、都会って凄いなぁ」
「ーーーー」
「それに、髪の先も紫でとってもお綺麗です!染めてるんですか?」
「ーー。はい。昔、ちょっと……」
髪は昔の友人、仲間達に染めてもらったものだった。
月明かりに照らされ、現在それと同色のAの瞳。
普段は黒に見えるその瞳は光の加減によって紫に変化して見える。仲間達が云うにはそれを『黒紫』色と云うらしい。
その『黒紫』とやらを仲間達は甚く気に入ったらしく、何故か同じ色で髪を染められたのがAの特徴的な髪色の理由だった。
「ーーーー」
そんな感慨に耽けるAを賢治は満面の笑みで、国木田と太宰は何時の間に漫才ーー否、口論をやめたのか訝しげに見つめていた。
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時