赤い果実を君に (ページ3)

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｢また会えないかなあ｣

今日何度目かのその言葉を私の口は勝手に喋っていた。

ちょうど1週間前のこと、綺麗な彼に会ったのだ。自分と同じくらいの背で、端正な顔立ちをした男の子。女の子と言われれば、そうかと納得するような中性的な子だった。

連絡先も知らなければ、名前すら知らない。ただ1度だけ交番で会って、数言言葉を交わしただけだ。

この1週間、何度かあの交番への道を歩いてはいるが
あの彼を見かけることはなかった。

(あの辺の家だと思ったんだけど、違うのかな)

いつの間にか考えるのは彼のことで、
大好きでやっている実況も身が入らないままだった。

教室の窓から空を見上げると、さっきまで輝いていた太陽が雲に覆われていた。

(雨、か、)

置き傘はなかったような気がする。

(早めに帰ろう)

そう思ったはずなのに、私はまだ教室にいた。

外は雨、まだ明るいはずなのに空は夜のように真っ暗だった。

鳴らないスマホをポケットに入れて、私は乗降口から駆け出した。

:

天鵞絨駅は人で溢れかえっていて、空から降り注ぐ雨粒は大きくなるばかり。

濡れて重くなった制服に体温がどんどん奪われていった。

｢ねぇ、あんた今日は傘がないの？｣

俯いていた私に、今すごく話したかった彼の声が届いた。