生まれたばかりの存在 ページ15
もう随分と前のこと。
Mr.Vは、とある世界の、とある街に来ていた。
その街の特徴は、一年中雨が降ること。
しとしとと静かに降る日もあれば、風が強く横殴りに降る日もある。
そんな街だった。
その街での仕事は終わり、次の世界へ旅立つ前日。短い期間ではあったが、世話になった街を彼が散策していた時だった。
その日は、Mr.Vが街に来てから一番酷い天気だった。風こそ吹いていないが、大きなバケツを何杯もひっくり返したような量の雨だった。歩くだけでズボンの裾がどんどん濡れていく。
一度休憩しようと、彼は少し先にある路地裏に入った。
片側だけだが屋根があるそこに入り、濡れた傘を閉じる。一息ついて服の具合を見ている時、Mr.Vはふと、なにかを感じ取った。
今、彼がいる路地裏の奥。
雨のせいもあり、その場所はよく見えない。
そこから、生まれたての、とても小さな魔力を感じたのだ。
その魔力は小さいながらも、禍々しい気配を纏っていた。
例えるならば、どす黒い闇を凝縮したような。
自分の意思で、そして引き寄せられるように、Mr.Vは路地裏の奥へと足を進めた。
一歩一歩、その気配に近付いていく。
近付くにつれ、肌がざわつくのが分かる。
徐々に、その奥が見えてくる。
蝿が大量に飛んでいて、空間は悪臭に包まれている。溜まりに溜まったゴミ袋から雨とは違う液体が滲み出ていて、それも要因のひとつのようだ。
足音が水音にかき消される中、Mr.Vは路地裏の最奥に到着した。
Mr.Vの胸の高さまで山を作っているゴミ袋の上に、気配の正体がいた。
人間で言うと、六歳くらいの見た目だろうか。背中を丸め膝を抱えた状態で、ゴミ袋の上に座っていた。
ただ、本当に生まれたばかりのようで、何も身につけていない「それ」、少年の身体は透けていた。背を付けている壁が、薄い肉体越しに見えている。
それの目の前に来ても何の反応も示さないのを見て、Mr.Vはそれの頭に手を翳す。
目を瞑り彼が小さい声で長い呪文を唱えると、少年の身体はだんだんと本来の肌と髪の色を表し始める。
詠唱が終わり、少年の存在はやっと世界に確立した。もう身体越しに背景は見えない。
少年のやせ細った手が僅かに動いたのを見て、彼は試しに声をかけた。
V「おい、大丈夫か」
突然聞こえた言葉に、目の前の身体が震えた。
ゆっくりと、少年は顔を上げた。
手入れも何もされていない髪の隙間から、この街では一度も見たことがない、天色が覗いた。
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かしおれ(プロフ) - リンネさん» リンネさん初めまして。閲覧ありがとうございます。その言葉ひとつがとても嬉しいです。お話はもう少し続くので、よければお付き合い下さいね。 (2019年1月8日 22時) (
レス) id: 8439607bfd (このIDを非表示/違反報告)
リンネ - 手下好きなので嬉しいです！凄く好きなタイプの話だったので続きが気になります！頑張って下さい (2019年1月7日 17時) (レス) id: 679ef415fd (このIDを非表示/違反報告)
まるごと林檎。 - かしおれさん» おお…！返信が来るとは…！！ありがとうございましっ！これからも見させていただきます！！ (2018年12月21日 0時) (レス) id: d45bba4278 (このIDを非表示/違反報告)
かしおれ(プロフ) - まるごと林檎。さん» まるごと林檎さん初めまして。閲覧ありがとうございます。その言葉が励みになります。もう少しお話は続くので、またよかったら見ていってくださいね。 (2018年12月20日 23時) (レス) id: 8439607bfd (このIDを非表示/違反報告)
まるごと林檎。 - 今まで見たものとは違い、全く新しいお話だったので最後まで読み進めちゃいました！これからも頑張ってください！ (2018年12月19日 14時) (レス) id: d45bba4278 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かしおれ | 作成日時：2018年12月11日 22時
