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YG「着てろ。少し肌寒いから」
車から降りると、ユンギ先生は私の持っていたシャツをふわりと広げ直して肩にかけてくれた。
それからどちらからともなく手を繋いで、海岸通りをあてもなく歩く。
辺りは静かで、波の音や鳥の声が鮮明に聞こえて心地がいい。
「誰もいないね」
YG「まだ4月だからな」
「足だけちょっと浸けてきてもいい?」
YG「絶対ダメ」
灯台の近くまで来たところで2人がけ用の小さなベンチを見つけて、並んで腰を下ろした。
いつの間にか夕日が差し始めていて、ついさっきまで青一色だった水面はわずかにオレンジがかってきらきらしている。
「ユンギ先生、ありがとう」
YG「ん?」
「約束、覚えててくれたんだね」
YG「あぁ…まぁな」
曖昧に頷きながら、少し照れたように笑う先生。
「あの頃は毎日病室の白い天井ばっかり眺めてたから、どこでもいいから広くて景色のいいところに行きたかったんだ。だけど先生に連れて行ってなんて、わがまま言っちゃってごめんね?」
YG「そんなこと気にしなくていい。これからはどこへだって行けるだろ?お前がまだ見たことのない景色、2人でたくさん見に行けばいい」
「先生…」
先生のこういうところ、本当にずるいと思う。
普段はそっけないのに、大切なことはちゃんと言葉にしてくれる。
そんな先生に、私はいつもどきどきさせられるばかりだ。
YG「なんだ、照れてんのか?」
俯いた私の顔を覗き込みながら、先生はいたずらっぽく言う。
YG「Aちゃーん。顔上げてみ?今見とかないと後悔するぞ」
「え?…うわぁ」
顔を上げた瞬間、自然と口から声が漏れた。
海の向こう、水平線に沈んでいく夕日はますます輝きを増して、空はオレンジと紫のグラデーションで幻想的に染まっている。
YG「綺麗だな」
そう言うと、繋いだままだった先生の手にわずかに力がこもる。
「うん…すごく綺麗」
私も頷いて、その手をきゅっと握り返した。
どうしようもない愛しさが、苦しいくらいに胸を満たしていく。
先生とずっとこうしていたい。
いっそこのまま時が止まればいいのに。
私は密かにそんなことを思いながら、ゆっくりと沈んでいく夕日をいつまでも眺めていた。
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作者名:yuzu | 作成日時:2022年6月5日 21時