◯8《トライアングルのはじまり》 ページ8
その日の昼休み、私と三郎くんは担任の先生に職員室まで呼び出された。
「お前ら、朝は普通に学校にいたらしいじゃねーか。どうして朝のホームルームにも一時間目の授業にもいなかったんだ。一体、どこに行ってた？」
何となく、こうなることは予想がついていた。
私たちが教室に戻るなり、クラスメートたちからも全く同じ質問を何度もされたから、先生からもそれ相応の何かがあるであろうことは覚悟の上で。
そんな先生の問いかけにも、同級生たちからの質問にも、私たちは断固として口を開かなかった。
各々でどう嘘をつくか考えていたけれど、そのどれもが苦しい言い訳になりそうだったから、何も言えなくて。
貝のように口を閉ざす私たちを見て、先生がため息をつく。
「…まあ、普段の授業態度も生活態度も全く問題のないお前らだから、何かやましいことをしてたわけじゃないんだろうって、信じてはいるが」
「…」
「…」
「せめて、いなくなろうとしてるなら先に俺に報告くらいしろよな」
そう言って、先生は私たちの肩をぽんぽんと叩いて。
「とりあえず今日のところは見逃してやる。二度はないぞ？ 一時間目の授業の内容、ほかの奴らから教えてもらっとけ」
そのまま苦く笑った先生の瞳を見て、罪悪感がこみ上げてくる。
私は今年、初めてこの先生のクラスになったけれど。
この人は、生徒に対して少し優しすぎる。
先生。
私、やましいことしてしまいました。
彼女持ちの男とキスしてしまいました。
何なら、そんな人からの「これからも会おう」っていう誘いに、乗ってしまいました。
「ほら、昼休みまだ残ってるから。もう行っていいぞ」
先生に諭された私たちは、二人揃って先生に頭を下げて。
踵を返し、出入口に向かって歩いていく。
職員室のスライド式のドアを開けると、廊下の壁側に小さな影が立っていた。
その姿が目に入った瞬間、私は息の詰まる思いがして。
「三郎くん。昼休み、会おうって話してたよね？」
私たちの存在に気づくなり駆け寄ってきた少女は、花も咲かせんばかりの笑みを浮かべて、私の隣の彼に声をかける。
ふわっと香る、甘い匂い。相当いいお香を身体につけているのだろう。
「先生から呼び出されてたみたいだけど…何かあったの？」
美しい彼の顔と冴えない私の面を交互に見ながら、彼女は無邪気にそう問いかけた。
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れい - 豊富な語彙が魅力的です。感情の表現が上手で感情移入しちゃいます！このお話が大好きです。一番好きです。 (2020年7月8日 17時) (
レス) id: 4faf975b53 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 糖分さん» こんばんは。ありがとうございます…！私も2人の幸せを祈るばかりです…更新頑張りますね。 (2020年5月28日 19時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
糖分 - コメント失礼します。切ないお話ですがもうずっと2人とも幸せになって！！って祈ってます…これからもがんばってください！ (2020年5月27日 18時) (レス) id: e6fa3a79ce (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - いぬさん» いぬさん、はじめまして。作者は一刻も早く三郎くんと主人公に幸せになって欲しいので、多少無理してでも更新していきたいと思います。応援して下さり、ありがとうございます！(; ;)どうかこれからもお付き合いください。 (2020年5月19日 17時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
いぬ - はじめまして。いつも楽しく読ませて頂いています！三郎君と夢主さんの今後の展開が読んでいて気になりました。美月さんのペースで頑張って下さい！！応援しています！！ (2020年5月18日 10時) (レス) id: db46678bdc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：美月 | 作成日時：2020年5月13日 4時
