+35《不思議な縁》 ページ36
燃え盛るような夏の熱さが、僕の体温を上げていく。
人いきれに入り込み掻き分けるが、君と二郎の姿はもうそこにはなかった。
甚平に付いていたポケットは震え続けている。恐らく茉由からの着信だろう。
僕は一度立ち止まってケータイの電源を切り、再び歩き出した。
それから何十分もかけて彼女たちを探したが、夏祭りの人の多さを見くびっていたらしい、やはり彼女たちを見つけることはできなかった。
虚無感に包まれながらケータイの電源を入れると、何十件もの着信履歴と、最上部に、
demon：
【もう私、帰ったから。うちの親は門限がうるさいの】
というメッセージがあった。
ちなみに"demon"とは、僕が独自に書き換えた佐藤茉由のアカウント名だ。
これは、次に会う時にはただじゃ済まされないだろう。
でも今は、そんなことはどうでもいい。
もう二郎も君も、帰ってしまっただろうか。
二郎とは話したいことがたくさんある。家に帰ったら絶対に尋問してやる。
祭囃子を尻目に帰り道を歩こうとした時、後ろから声をかけられて。
「山田くん！」
その声に振り返れば、白いTシャツにハーフパンツを履いた少女が、僕に向かって走ってきていた。
彼女は僕と数メートルの距離を空けて立ち止まる。
息を切らしているのは、見慣れた僕のクラスメートだった。
「…どうしたんだよ、田中」
本当に、こいつとはつくづく縁があるなと思う。
学校の中までとはいかず、まさか夏休み中にも関わることがあるなんて。
それにしても、彼女は何だかただならぬ様子だ。
一体何があったというのか。
「私、このお祭りのスタッフやってて、それで、さっき、あなたのお兄さんが、Aさんがいなくなったって、言ってきて」
「は？」
A、と、その名前を出された僕は動揺した。
ていうか何だ？ 「いなくなった」、だと？
「何それ、どういうこと」
「多分、お兄さんは、何らかの事情でAさんとはぐれて、それで、スタッフである私に声をかけてきたんだろうけど、」
「…っ、うん」
「『妹とはぐれたんだ！』って、山田くんのお兄さん、すごく焦ってて、」
…妹？
「だから今、彼と手分けして探してるところ。お願い、山田くんも手伝って！」
そう言って、勢いよく頭を下げられる。
田中は、今までに見たことのないくらい必死の形相だった。
「Aさんを…助けたいの」
僕はその言葉に、腹を立てた。
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れい - 豊富な語彙が魅力的です。感情の表現が上手で感情移入しちゃいます！このお話が大好きです。一番好きです。 (2020年7月8日 17時) (
レス) id: 4faf975b53 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 糖分さん» こんばんは。ありがとうございます…！私も2人の幸せを祈るばかりです…更新頑張りますね。 (2020年5月28日 19時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
糖分 - コメント失礼します。切ないお話ですがもうずっと2人とも幸せになって！！って祈ってます…これからもがんばってください！ (2020年5月27日 18時) (レス) id: e6fa3a79ce (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - いぬさん» いぬさん、はじめまして。作者は一刻も早く三郎くんと主人公に幸せになって欲しいので、多少無理してでも更新していきたいと思います。応援して下さり、ありがとうございます！(; ;)どうかこれからもお付き合いください。 (2020年5月19日 17時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
いぬ - はじめまして。いつも楽しく読ませて頂いています！三郎君と夢主さんの今後の展開が読んでいて気になりました。美月さんのペースで頑張って下さい！！応援しています！！ (2020年5月18日 10時) (レス) id: db46678bdc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：美月 | 作成日時：2020年5月13日 4時
