+32《愛する君がため》 ページ33
何度も部屋の机に突っ伏して奥歯を噛み締めた時に思い浮かべたのはいつも君の笑顔だった。
そして僕は起き上がった。
ケータイのロックを解除し、ホーム画面に現れた写真を見て、笑みをこぼす。
画面の向こうの君が少し怒った顔で、こちらに向かって手を伸ばしている。
いつしか、放課後の教室で、僕が何となく君を隠し撮りしたくなった時に残した写真だった。
僕のカメラロールにある君を写した写真は、たったこれ1枚のみ。
何でもなく笑い合い、そばにいるだけで幸せでいられたあの日常を取り戻すためなら。
そして本当の意味で、君のそばに居続ける日々を。
君との「その先」に進んで、手を取り合って歩く未来を僕が望む限り。
僕に、諦めるなんていう選択肢はない。
「友達」ではなくなってしまった僕らが、何も縛られることなく愛し合う日々を求めて。
よし、と一息ついた僕は再びパソコンに向かった。
＊
夏休み中は、茉由は塾にこもりきりで僕と会う機会もほとんど作れなかったらしい。
それがありがたかった。おかげで僕は悪魔の手から逃れる術を探すことに没頭できた。
そもそも、最初から会いたい気持ちなど向こうの一方通行だ。会えない日々が続いたところで僕には何のダメージもない。
だがある日、茉由から連絡が来た。
それは「一緒に夏祭りに行こう」という内容で。
「…めんどくさ」
拒否権のない僕はただ「わかった」と返信を打つと、「待ち合わせ場所は…」と、その後必要な連絡を取り合い、すぐさまケータイをしまった。
そして仕事から帰ってきた一兄に、「一兄、僕今度夏祭りに行ってきます」と伝える。
「お前も行くのか？ ちなみに誰と」
「(お前も…？)えっと…友達と」
「それってAか？」
「…」
「…まあ、どっちでもいいけどよ」
「どっち」、と彼が放ったのはすなわち、一兄の中で僕が一緒にお祭りへ行く人物は茉由かAかの二択しかなかったということだろう。
「俺はAであると賭けて、お前に渡しとくぜ」
「？」
意味深なことを言った一兄はリビングを出て自分の部屋に行ってしまった。
そして戻ってくると、１着の甚平を僕に手渡して。
「常連さんからの頂き物だ。せっかくだしこれ着て楽しんで来いよ」
そう言って頭を撫でてくれた一兄の顔に、苦く笑って。
僕はただ一言「ありがとうございます」と伝えた。
一緒に行く相手が君だったら、彼の気遣いに心から喜べただろう。
+33《黒と水仙、紺と撫子》→←+31《海の底より深い場所》
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 112人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れい - 豊富な語彙が魅力的です。感情の表現が上手で感情移入しちゃいます！このお話が大好きです。一番好きです。 (2020年7月8日 17時) (
レス) id: 4faf975b53 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 糖分さん» こんばんは。ありがとうございます…！私も2人の幸せを祈るばかりです…更新頑張りますね。 (2020年5月28日 19時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
糖分 - コメント失礼します。切ないお話ですがもうずっと2人とも幸せになって！！って祈ってます…これからもがんばってください！ (2020年5月27日 18時) (レス) id: e6fa3a79ce (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - いぬさん» いぬさん、はじめまして。作者は一刻も早く三郎くんと主人公に幸せになって欲しいので、多少無理してでも更新していきたいと思います。応援して下さり、ありがとうございます！(; ;)どうかこれからもお付き合いください。 (2020年5月19日 17時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
いぬ - はじめまして。いつも楽しく読ませて頂いています！三郎君と夢主さんの今後の展開が読んでいて気になりました。美月さんのペースで頑張って下さい！！応援しています！！ (2020年5月18日 10時) (レス) id: db46678bdc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：美月 | 作成日時：2020年5月13日 4時
