○26『山田家の持つ優しさ』 ページ26
私たちはそのままベンチに座って、他愛もない話ばかりした。
これはこの前山田家にお邪魔した時も思っていたことだけれど、彼のする話は三郎くんとはまた違う話題が多く、それを聞くのが楽しくて。
高校2年生の夏休みは、とにかく部活が忙しいらしい。二郎さんは休みもほとんど無くて、毎日くたびれながら家に帰ってくるのだという。
部活の合間を縫ってサッカースタジアムでのバイトも始めたそうで。
そこの上司のオネーさんがやたらと二郎さんに色目を使っているらしく、いつも頭を悩ませているとの話も聞かせてくれた。
そうか。二郎さん、やっぱモテるんだな。
そりゃそうだ。
ちょっと不器用なところもあるけど、こんなにかっこよくて、器が大きい性格なんだもの。
モテないはず、ないよね。
二郎さんはすごく充実した夏を過ごしているんだな。
そんなに忙しい中で、いつもすぐ私の電話に出てくれていたなんて。
彼は本当に、優しい人だ。
そして私はある時、二郎さんから電話を貰ったあの日からずっと気になっていたことを、ここで尋ねることにした。
「あの、二郎さん」
「んー？」
「どうして私をこのお祭りに誘ってくれたんですか？」
誘ってくれたのは特に深い意味はないのかもしれない、ただの気まぐれなのかもしれない。
だけど、二郎さんは話を聞いてる限り友達の多そうな人だし、私以外に一緒に行ける人なんて他にいくらでもいるのでは、と思ってしまったのだ。
問いかけて返事を待つ私に、二郎さんが人差し指でこめかみあたりを掻いて。
「んーと…今日たまたま部活がオフになったから誰か誘って祭りでも行こうかなーなんて思ってたんだが。
俺の知るダチは皆部活とか遠征行ってて、都合つかなかったらしくてよ。兄ちゃんも仕事あるって言うから、」
「――なるほど、それで消去法で私、というわけですか」
「っ、んな人聞きの悪ぃ言い方すんな。俺はただその、なんつーか、」
「？」
「…お前を元気づけたくて」
「…え？」
二郎さんはそのまま「ああっ、くそ。上手く言えねぇけど、」と続けて、私の方を向いた。
彼の持つりんご飴はいつの間にか私よりもずっと小さくなっていて、食べるの早いな、相当ベロの使い方上手なのかな、なんてぼんやり見つめて。
オッドアイの片方の緑が、三郎くんと一郎さんの持つものにそっくりで、彼らの瞳に宿された「人としての優しさ」が、私の心にじんわりと染み込んでくる。
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れい - 豊富な語彙が魅力的です。感情の表現が上手で感情移入しちゃいます！このお話が大好きです。一番好きです。 (2020年7月8日 17時) (
レス) id: 4faf975b53 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 糖分さん» こんばんは。ありがとうございます…！私も2人の幸せを祈るばかりです…更新頑張りますね。 (2020年5月28日 19時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
糖分 - コメント失礼します。切ないお話ですがもうずっと2人とも幸せになって！！って祈ってます…これからもがんばってください！ (2020年5月27日 18時) (レス) id: e6fa3a79ce (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - いぬさん» いぬさん、はじめまして。作者は一刻も早く三郎くんと主人公に幸せになって欲しいので、多少無理してでも更新していきたいと思います。応援して下さり、ありがとうございます！(; ;)どうかこれからもお付き合いください。 (2020年5月19日 17時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
いぬ - はじめまして。いつも楽しく読ませて頂いています！三郎君と夢主さんの今後の展開が読んでいて気になりました。美月さんのペースで頑張って下さい！！応援しています！！ (2020年5月18日 10時) (レス) id: db46678bdc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：美月 | 作成日時：2020年5月13日 4時
