+3《言葉にできない》 ページ3
「はぁっ……くそっ、こんの体力、馬鹿が……はぁっ……はぁっ……」
「…っ、」
君は、息を荒げる僕の顔からひとときも視線をそらすことはしなかった。
彼女も息は切れていたけれど、それは走ったからというよりは、泣くことで生じる過呼吸を必死に抑え込んでるかのようで。
数分間、お互いに息を整える。
僕らはその間一言も言葉を交わさなかった。
一緒にいるときはいつも喋りふけてばかりだった僕らにとって、この状況は異常事態なのだと思う。
いつも本音で話せる彼女に今日の僕はただ慎重だった。何を、何から彼女に話せばいいのかさっぱりわからなかった。
今までの経験と知識を手繰り寄せてかけるべき言葉を必死に探しても。浮かんだそれらの全てに自信を持てないまま、腹の奥底に押しとどめてしまう。
当たり前だろう。だって僕、今までこんなに異性を好きになったことがなくて。
兄弟以外の人間とのつながりなど脆く儚いものだと思っていたのに、こんなにも、大切にしたい、壊したくないと思う人は…君が初めてだから。
それまで正論しか吐けなかった僕の唇は、いつの間にか君の前では引っ込むようになってしまったらしい。
「っ、三郎くん。私のこと、そんなに信用できない？」
いつまでたっても口を閉ざすばかりの僕に痺れを切らした君が、沈黙を打ち破る。
君の声は震え、怒っているようにも、悲しんでいるようにも、呆れているようにも聞こえた。
「話してくれたって良かったじゃん。付き合ってる女の子がいることくらい」
「…」
君はもし、僕が本当のことを話したらなんて言う？
どんな顔で僕を見る？
佐藤茉由に脅されたから付き合い出しました。
あんな奴の恋人になるのは嫌だったけど、もし付き合わなかったら、萬屋ヤマダを潰すと告げられたんです。
彼女の母親は中王区の権力者で、僕が少しでも抵抗すればそいつが動く。
一兄にも二郎にも迷惑をかけたくなくて、仕方ないから言うことを聞くことにしました。
情けないにもほどがあるだろう。
そんな話をしたらきっと彼女を幻滅させてしまう。
それに、いくら脅されていたとはいえ、佐藤茉由のものになると決めたのは他でもない、自分自身だ。
その事実を自らの口で彼女に伝えることに、僕は酷く抵抗感があった。
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れい - 豊富な語彙が魅力的です。感情の表現が上手で感情移入しちゃいます！このお話が大好きです。一番好きです。 (2020年7月8日 17時) (
レス) id: 4faf975b53 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 糖分さん» こんばんは。ありがとうございます…！私も2人の幸せを祈るばかりです…更新頑張りますね。 (2020年5月28日 19時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
糖分 - コメント失礼します。切ないお話ですがもうずっと2人とも幸せになって！！って祈ってます…これからもがんばってください！ (2020年5月27日 18時) (レス) id: e6fa3a79ce (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - いぬさん» いぬさん、はじめまして。作者は一刻も早く三郎くんと主人公に幸せになって欲しいので、多少無理してでも更新していきたいと思います。応援して下さり、ありがとうございます！(; ;)どうかこれからもお付き合いください。 (2020年5月19日 17時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
いぬ - はじめまして。いつも楽しく読ませて頂いています！三郎君と夢主さんの今後の展開が読んでいて気になりました。美月さんのペースで頑張って下さい！！応援しています！！ (2020年5月18日 10時) (レス) id: db46678bdc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：美月 | 作成日時：2020年5月13日 4時
