+2《君が泣きそうなときは》 ページ2
教室に入るなり、それはもうため息が出そうになるほどの質問攻めを食らって。
普段僕らに話しかけてすら来ない奴らが、ここぞとばかりに尋ねてくるのが滑稽だったし、鬱陶しかった。
「山田！ お前、茉由ちゃんと付き合い出したのかよ！」
一際大きな声で投げかけられた問い。教室中の視線を感じるまま、僕は重たい口を開く。
本当は、違う、違うんだと声高らかに否定したいのに、それを許されない立場にあることが虚しい。
僕が何より辛かったのは、君の視線を強く感じることだった。
教室の真ん前で肯定した僕を見た君は、心底傷ついたような顔をして、教室から走り去っていって。
クラスメートたちはそんな彼女の様子に誰も気づかず、ただただ僕の放った言葉への興味だけを途絶えさせなかった。
僕はちらりと教室の掛け時計を見る。朝のホームルーム開始まで、もう数分を切っていた。
追いかけろ、と、もう一人の自分が脳の奥で僕に告げている。
追いかけなくては。このまま追いかけなかったら、僕らはもう二度と一緒にいられなくなる気がする。
気がついたら身体が動いていた。衝動的だった。僕を呼び止める声の何もかもを無視した。「ホームルーム始まるぞ」という声も、「山田、どこに行くんだ」と注意する先生の声も。
君は足が速いらしい。
『私、小学生の頃サッカーやってたんです！』
二郎と仲良さげに話していた君を思い出す。その脚力は、小学生時代に培ったものだというのか。
まだたった二日前のことなのに、今となっては遠すぎる記憶。あまりにも幸せでたまらなかった、その日のこと。
思い出せば思い出すほどに、胸が苦しくなる。
右へ左へ、角を曲がる時に見えた君の目元は、真っ赤だ。
君が泣きそうになっているときは、僕まで泣きそうになってくる。
「おい、待てよ！」
僕が大きく呼びかけた声に君は走りながら背を震わせた。
ようやく追いついた背中に手を伸ばし、片腕を掴んで引き寄せる。
僕も君も息は絶え絶え。冷房の全く効かない公立中学校の校舎内は肌にまとわりつくような熱気が充満している。
頬を真っ赤に染め上げながら揉み合う身体と身体。共に全力疾走を終えたばかりの僕らは、汗だくで。
抵抗する君を押さえつけようと藻掻いているうちに、僕らは視聴覚準備室に入り込んだ。
そして、視線がぶつかり合って。
時が止まったように見つめ合う中、狭い室内に呑気なチャイムの音が鳴り響く。
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れい - 豊富な語彙が魅力的です。感情の表現が上手で感情移入しちゃいます！このお話が大好きです。一番好きです。 (2020年7月8日 17時) (
レス) id: 4faf975b53 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 糖分さん» こんばんは。ありがとうございます…！私も2人の幸せを祈るばかりです…更新頑張りますね。 (2020年5月28日 19時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
糖分 - コメント失礼します。切ないお話ですがもうずっと2人とも幸せになって！！って祈ってます…これからもがんばってください！ (2020年5月27日 18時) (レス) id: e6fa3a79ce (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - いぬさん» いぬさん、はじめまして。作者は一刻も早く三郎くんと主人公に幸せになって欲しいので、多少無理してでも更新していきたいと思います。応援して下さり、ありがとうございます！(; ;)どうかこれからもお付き合いください。 (2020年5月19日 17時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
いぬ - はじめまして。いつも楽しく読ませて頂いています！三郎君と夢主さんの今後の展開が読んでいて気になりました。美月さんのペースで頑張って下さい！！応援しています！！ (2020年5月18日 10時) (レス) id: db46678bdc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：美月 | 作成日時：2020年5月13日 4時
