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目前に広がる世界は確かに真っ暗なはずなのに、身体だけは羽毛布団に包まれてるかのように軽かった。

それはまるで暗い海の底から少しずつ光に向かって地上の世界に連れていかれるみたいな感覚。

泡を吐きながら上へ上へと掻き泳ぎ水面(みなも)に手を伸ばしたその瞬間、私の意識はたちまちに覚醒した。



「おや。お目覚めですか」



それまでの暗闇の世界が跡形もなく消え、代わりに温かな陽だまりと優しい声が一緒になって降り注ぐ。

肌触りの良い布団の上に寝転がる私の目に最初に映ったのは、ありふれた木製の天井だった。



投げ出された足の方を見ると、半開きの障子に隔たれた先は縁側になっていて、こぢんまりとした庭に一本の木が生えている。

そのまま視線をゆっくりと斜め前にずらせば、一人の男が私の傍らであぐらをかき、薄く微笑んでいて。

縁側から射し込む太陽の光が、彼の色白な顔にほのかな陰影を作る。


状況から察するに、私はどこかの日本家屋の一室で眠っていたらしい。

そしてこの男の人が、私を起こしたと。



目覚めたばかりで脳が覚束無い私は横になったまま、その綺麗な人の顔をぼんやりと眺めた。


亜麻色の髪の毛に翡翠色の瞳。見ているだけで心が透き通っていくような癒しの雰囲気。

ぽーっと見つめてしまう私に、彼はふふふと小さく笑って。



「それでは行きましょう。今日は乱数と帝統に会いに行く日ですからね」


その言葉の意味を理解する前に布団の中から引っ張り出された私は、そのまま彼と手を繋いで屋敷の外へ出た。





眠りにつく前の記憶を必死に手繰り寄せるけど何も思い出せない。

私はどうしてあんなところで寝ていたのだろう。今私の手を引いて歩くこの男の人は誰なのだろう。

疑問は尽きないのに何ひとつとして明確な答えが出せないまま、ただ彼に連れられて歩く。


書生のような格好をしたその人は、道中で夢野幻太郎と名乗ってくれて、「気分はどうですか」とか、「起きたばかりでは歩きづらかったですか」とか、私のことを何度も気遣ってくれた。

面倒見のいい人なのだろう。私が少し道の石に躓いただけで「大丈夫ですか」と腰を支えてくれる上に、歩くペースもゆっくりにしてくれる。

繋がれた手は男性らしく骨張りながらもその肌はすべすべと滑らかで、女性のような柔らかみがあった。

なんだか、不思議な人だ。

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美月(プロフ) - 糖分さん» コメント気づかず遅くなってしまい申し訳ございません(; ;)ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです…!これからも応援よろしくお願いします。 (2020年5月27日 18時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
糖分 - ひえ〜〜好きです(;▽;)らむだくんや三郎くんの小説も応援してます! (2020年5月22日 12時) (レス) id: e6fa3a79ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:美月 | 作成日時:2020年5月22日 3時

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