執着。4 【安室透】 (ページ23)

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宝＊143 ページ23

おじいちゃんからも許可を得ることができた私は、カフェでのアルバイトを始めた。
おじいちゃんからの条件として、上杉家がオーナーのカフェ、ではあるけれど。
自分でこなさないと意味がない、とキノや佐々木さんの送迎の申し出も断り、
放課後と、土日祝日の日中を含めて週に4日から5日。
オーナーの孫ということは店長以外には伏せてもらって。

段々と慣れてきて、早くも常連さんとなっている人たちの顔も覚えて来た頃。

「あれ？昴くん！」

「こんにちは、Aさん。
　お宅にお伺いしたら、ここで働いていると聞いたもので」

にこやかにそう言った昴くんを空いている席に案内して、注文を聞く。
どうして急に働くことにしたのかと聞いて来た昴くんには、曖昧に笑って答えた。

「安室さんを、水族館に招待したくて」

「……水族館？」

「うん、今度リニューアルオープンする東都水族館。
　あそこ上杉家も資金出してるらしいんだけど、そこに安室さんを招待したいの」

いつも忙しい安室さんに言うのは我儘だろうか。
けれどたまには忘れて、私の彼氏として普通の時間を過ごしてほしい。

「あ！そうだ昴くん」

そこまで言って、今度は声を落として、彼の耳元に口を寄せる。

「今度赤井さんに会える？
　言いたいことがあるの」

「……すみません、まだしばらくは」

「だよねぇ……」

やっぱりそうだよね。彼は死んだことになっている人間だもの。
肩を落とす私に、昴くんはよければ自分が伝えると言った。

少し悩んで、だけどやっぱり自分で言いたいと、その申し出を断った。

「あのね、前に昴くんに買ってもらったワンピースあるでしょ？
　それを着て行こうと思うんだ」

「へぇ、それは……。
　彼、きっと揺れてしまいますよ」

「ゆれる……？」

「ええ。嫉妬と喜びでね」

「？？？」

意味が解らないと首を傾げても、昴くんはクスクスと笑うだけ。
カウンターから、昴くんの紅茶ができたことを告げられた私は席を離れた。