執着。【安室透】 (ページ10)

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宝＊10 ページ10

お昼ごろ病室に戻り、まるであの事がなかったかのようにくだらない話をして過ごし、
安室さんが帰る時間になると、同じようなタイミングで白衣を着た白髪頭の先生が入ってきた。

「秋月(あきづき)さん、少しお話がありまして」

佐藤、と名乗った先生は、安室さんをちらりと少し気にする素振りを見せながら言った。
安室さんは、私が運ばれてきたときも自身の車で追いかけてきて、
そのまま私の入院手続きや準備などもしてくれたらしく、状態なども聞かされていると言っていた。
今更彼に聞かせることを戸惑う話となれば、今も霊安室にいるパパとママのことだろう。

「僕はもう帰ろうとしていたところなので、お気になさらず」

言いながら安室さんは立ち上がり、「じゃあまた明日」と病室を出て行った。
その様子を見た先生はベッドの横に立ち、「体調はどうですか」と私に笑みを向けた。
目尻に深く皴のできる、とても穏やかそうな先生だ。

「元気です、さっき中庭にも行ってきました」

「そうですか。中庭はね、他の患者さんにも人気なんですよ」

「へぇ……たしかに、気持ちいいですもんね」

そう言えば「そうでしょう」と誇らしげに言った先生。
ここで働いていることに誇りを持っているのだろうと思った。

「……それで本題ですが、秋月創(はじめ)さんと秋月若菜(わかな)さん。
　つまり、Aさんのお父さんとお母さんに関することです」

「…………」

黙ったまま頷く。
先生は続けた。

「このままあの場所に眠らせておくことはできません。
　なのでなるべく早くどなたかにお引き取り貰わなければなりません」

「……はい」

「そう思っていたんだけどね」

突然、先生は砕けた口調でそう言った。
思っていた言葉と違う言葉を言われ、先生を見れば彼は「実は」と眉を顰める。

「ふたりを引き取ると言っている人がいてね」

「え……そ、それ、誰ですか」

パパとママはふたりとも、親族はいないと言っていた。
つまり遺体を引き取る人なんて、そう簡単に現れることはないだろう。

戸惑う私に、先生はその人を連れてくると言って病室を出て行った。