宝*09 ページ9
傍にいる。
そう言った安室さんの瞳はとても穏やかで、優しかった。
「ほんと?」
「もちろん。
君がひとりでも大丈夫って思えるまで、ちゃんとね」
生活の手助けもするよと彼は続けたけれど、
私はその言葉には頷くことができなかった。
「ひとりは、やだよ」
そう言って左隣に座る安室さんの袖をつまむ。
「ずっとそばにいて」
分かってる。こんなの我儘以外のなにものでもなくて、ただの押し付けだってこと。
彼には彼の人生があって、そこに私みたいなのが踏み込んじゃだめなこと。
分かっているけど、嫌なんだ。
「私、なんでもする……傍に居られるなら、なんでもするから。
だから……お願い、ずっと、傍にいて」
驚きと戸惑いに揺れる、スカイブルーの瞳。
薄く開いた唇は、何かを発する前に苦し気に閉じられた。
「そんなことを、年頃の女の子が簡単に言ったらいけません」
再度開かれた唇からは、望んだ言葉でも、覚悟していた言葉でもないものが紡がれる。
彼は自身の袖をつまむ私の手を柔らかく包むと、手を繋ぎなおしてベンチに置いた。
「今日は夕方からバイトと、夜には仕事もあります。
なのでそれまでには帰りますけど、また明日も来ますから」
「……うん」
調子を戻した彼に、この年代の女子によくある一種の気の迷い。
そう言われた気がして、そっと手を放し膝を抱え込んだ。
1180人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:謙 | 作成日時:2018年4月10日 0時