宝*08 ページ8
バナナを食べ終え、安室さんと並んで中庭へとやってくると、
先程病室から見下ろしたときより人が増えていて、賑わっていた。
右に点滴スタンド、左は骨折のために両の手を使えないけれど、
久しぶりに出た外の空気は気持ちが良かった。
「あそこのベンチにでも座りましょうか」
安室さんに促され、少し先の空いたベンチにふたりで並ぶ。
特に何をするわけでもないけれど、ただそうした穏やかな時間が心地良い。
「……ねえ安室さん」
「ん?」と首を傾げてこちらを見遣る安室さんに、
私は視線を返すことなく、聞いてみたいと思っていたことを投げかける。
「安室さん、どうして私の面倒を見てくれるの?
私みたいなの、ただの厄介事でしかないのに」
事故で両親を失い、身よりもなく、天涯孤独。
そんな未成年の子供は、たまたま事故現場に居合わせただけの彼からしたら、
面倒ごとにすぎないはずなのに、どうしてか彼は毎日私の様子を見に来て、
そうして今も、彼はこうして私のところに来ては私の面倒を見てくれる。
とても嬉しいけれど、ただ、どうしてなのかが気になったのだ。
「ねえ、どうして?」
所詮、私と安室さんは他人だ。
私が退院すれば、彼は私のことを気にせずに生活していくのかもしれない。
それどころか、明日にはもう来てくれないかもしれない。
本来ならばそれが当然のことだろうし、そもそも居合わせただけの彼が、
事故で意識不明となったただの女の子とこうして関係を築いているのもおかしな話だ。
けれど今の私には、彼が。安室さんが全てなのだ。
親を亡くした私には、安室さんだけが私の全てなのだ。
彼がいなくなってしまったら、今度こそ私は。
「…………そんな顔をしないで。
君が退院しても、君が望む限り、僕は傍にいます」
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作者名:謙 | 作成日時:2018年4月10日 0時