宝*26 ページ26
守る、と言った安室さんとユサさんはしばらく無言で見つめ合っていて、
それはユサさんの小さな溜息で終わりを告げた。
「その言葉、お忘れなきよう」
言いながら、スーツの胸ポケットからひとつの手紙を取り出し、
安室さんへと渡したユサさんは「それでは」と言いながら階段を降りていく。
「私を、連れて行かなくていいの……?」
もちろん行きたくはないけれど、連れ帰れが謙三さんからの命令だったはず。
乱暴にもせず、案外アッサリと帰っていくことに驚いたのだ。
「……謙三様の命には続きがあります」
―――「遊佐。Aを連れ帰ってこい。じゃが決して手荒なことはするでないぞ」
―――「ですが、A様のあのときのご様子を見る限り……」
―――「そうじゃな。だからどうするかは、お前に任せる」
―――「……良いのですか」
―――「構わん。Aの気持ちと、あの男が信用に足る人物かどうか、お前が判断しろ」
「そして判断の結果、信用に足ると思ったなら、その手紙をお渡しするようにと」
つまり、遊佐さんも謙三さんも、もう私を迎えに来ることはない。
私は、望む限り安室さんと一緒にいられる。
「やったぁ!安室さん、これからも一緒にいられるよ!!」
「ああほら!腕を落ち着かせて!!」
まるで飛び跳ねるように喜ぶ私を宥めながら、彼はすでに背を向けているユサさんに言う。
「約束は守ります」
彼は背を向けたまま、階段を降りる足を止めたりはしなかったけれど、
その纏った空気が少しだけ柔らかくなったような気がした。
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作者名:謙 | 作成日時:2018年4月10日 0時