執着。【安室透】 (ページ3)

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宝＊03 ページ3

「……もう、パパもママも、いなくなっちゃった」

子供みたいな言い方をしたと思う。
けれど私には唯一の血縁者だったのだ。
平凡な、小さいけれど確かに幸せな、たったひとつの家族だったのだ。

アムロさんに車椅子を押してもらいながら霊安室に行き、
冷たくなり、ピクリとも動かないママとパパの身体を見てきたのはつい先程のことだ。

不思議と涙は出てこなくて、だけど1秒でもその場所にいたくなくて、
アムロさんにお願いをして早々に病室へと戻った私は、
ベッドに横になると頭まで布団を被りそう呟いた。

それが傍にいる彼に聞こえたのかどうかは分からないが、おそらく座ったのだろう。
ギシリとスプリングの軋む音のあとに、「Aを助けて」と、彼の声が聞こえた。

私がほんの少し反応したのに気が付いたのだろうか、彼は続ける。

「僕が君たちの近くへ行ったとき、まだ意識のあった君のお母さんに言われた言葉だ。
　それだけ言うと君のお母さんはすぐに息を引き取り、呼びかけに応えなくなった」

お医者さんが言っていたけれど、パパは事故の際即死。
ママの直接の死因は出血多量によるショック死だそうだ。

私が骨折で済んでいるのは、ママが身を挺して私を守ってくれたからだと。

どうして事故が起こったのか、パパとママがどうして死ななきゃならなかったのか、
きっとそんなこと、誰も答えられないだろう。
それこそ、神様にだって。

そんな私にわかるのは、ひとつだけだった。

「アムロさん……私、これからひとりぼっちだよ……」

もうあの幸せが戻ってくることは、二度とないのだ。