執着。【安室透】 (ページ13)

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宝＊13 ページ13

歳をとると涙腺が緩むなと懐から取り出したハンカチで目元を拭った謙三さん。
戻ってきた佐藤先生が驚いて、「どうしました」と聞くと、
謙三さんは孫に会えて嬉しいんだと震える声で言った。

それを言われた私は、私にもまだ血の繋がった人がいたんだという安心感と、
会ったこともない祖父にそう言われて嬉しい気持ちと、
他にもいろいろと混ざり合って複雑だけれど、それでも嬉しさが勝った。

「安心せい。退院したら、家に来なさい」

「えっ……」

佐藤先生の説明をあらかじめ受けていたのか、さらりと書類にサインをした謙三さんは、
私に向かってにかりと笑い、そう言った。
予想もしていなくて、けれどどこかで可能性を感じていたその言葉に驚けば、
謙三さんは「退院するまでには部屋を用意しておく」と続ける。

「じゃああの家は？」

何かを考えるより先に、私はそう言っていた。

あの家……もとい、マンションの一室は、私が物心ついたときから住んでいて、
パパとママと3人、たくさんの思い出が詰まった大切な場所だ。
パパもママもいない今、その部屋もなくなったら、私はどこに想いをよせればいいの。

「なんじゃ、あのマンションに住みたいのか」

「……なくなるのは、いやです」

正直に言えばそうだ。
けれどそれはきっと無理な願いだろう。
そう思い、謙三さんの問いに否定も肯定もすることなく、思いを伝える。

「ならばあの部屋、ワシが買い取ろう」

迷うことのないその言葉に呆然とした私を見た謙三さんは、
「ワシは決めたら貫き通す男じゃ」とニカリと笑い、携帯片手に部屋を出て行き、
その後すぐに戻ってきたと思ったら、退院の時に迎えに来るとだけ言い残し去って行った。