執着。【安室透】 (ページ2)

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宝＊02 ページ2

鼻腔をくすぐるその香りは、ママがよく飲んでいた紅茶の香りだとわかった。
ママはフレーバーティが大好きで、食後には毎日かかさず飲んでいた。

紅茶にはあまり興味を示さなかった私だったけれど、
ママに話したいことがある時は一緒に飲んで、気が済むまで話をしていたっけ。

そうするとなぜか、どんな悩みも打ち明けられた。

そんなことを思い出しながら瞼を上げれば、
久しぶりに思える光に思わず「う……」と声が出て、眉を顰める。

「ああ、良かった。目が覚めたようですね。
　2日も目を覚まさないから、心配していたんです」

そう言いながら私の視界に入ってきたのは、見知らぬお兄さんだった。

「……だれ？」

起き上がろうとするけれど、どういうわけか全く力が入らずに諦める。
段々と慣れてきた光の中でもう一度彼の姿を見ると、やけに人目を惹く容姿だなと感想を抱き、
「安室透です。覚えていませんか」と言う彼の問いに小さく頷いた。

「そうですか……。けれど無事でよかった。
　お医者さんの話ではほとんど外傷もなく、頭部の異状もみられないそうだから、
　君は一週間ほどで退院できるみたいですよ」

言いながら彼は柔らかく微笑んだ。
「ただ、腕を骨折していますから、安静にね」と続ける。
そう言われてようやく腕の違和感を自覚すると同時に、
こうして目を覚ます前の出来事が脳裏にまざまざと蘇り、私は吐き気を催した。

「うえっ……う、おええっ……」

血に染まる母。血に浮かぶ父。
あの様子ではおそらく―――……。

そして、私を抱き、安心させてくれた誰か。

「おえっ……」

すぐにお兄さん―――アムロトオルさんがビニール袋を張った桶を私の元へと持ってきて、
起き上がり桶に顔を沈める私の背中をゆっくりと撫でてくれる。

「落ち着いて……そう、ゆっくり」

「うっ……」

涙が溢れ、何も考えられなくなる。
アムロさんに言われるがまま、差し出された水で口の中を濯ぎ、再び横になると、
洗面台で私の吐き出した汚物の後処理をする彼の背中を見て思う。

あのとき、私を抱きかかえてくれたのはおそらく彼だろう。
だけどなんで、今でも私の近くにいて、こうして面倒を見てくれているのだろう。と。

それから、ほんの少しの、違和感を。