【wrwrd!】四面不確かな楚歌【学パロ】

不確かな恋 ページ46

彼には心がありませんでした。





「両想いになれるおまじない」





　大先生が呟いた。資料をめくる手を止めて復唱する。なんだ、と尋ねれば彼は口角を上げ、最近できた彼女の周りで流行っているおまじないだと教えてくれた。手順は実に簡単で、必要なのはぬいぐるみだけ。大先生が言うには、男子には知られちゃいけないおまじないらしく、それやったらもうアウトやんと言えば、




「どうせほんまちゃうんやからええねん」





　と、無責任に笑った。






・







・







・









　まるで魔法にかけられたみたいだった。
　1年の頃は大先生と同じクラスだったが、2年に上がると生徒会メンバーはクラスに誰も居なく解放感と共に少し寂しさが感じられる。しかし、そんな心を打ち砕いたのは今、扉を開けた女子生徒。


　きっと、特別美人だとかスタイルが良いとかではない。けど、彼女の何気ない仕草や表情、触れると壊れてしまいそうな女子特有の弱々しさが大いに感じられた。蕾が待ち構えたように咲く準備をする。外の桜は散り始めているが、確かに俺の心に、恋心が咲こうとしていた。




　人生初の、一目惚れだ。





　Aさん。彼女は今日も友人たちと集まって話をし、お弁当を美味しそうに大事にそうに食べて、しっかりとごちそうさまと言って弁当箱の蓋を閉じた。そういうところも、良い。女子という生き物は、一線を引いて交わう生き物だと思っていた。近づき過ぎて誤解を生めば簡単に自惚れてしまうし、実際去年は酷い目にあった。でも、Aさんは違う。その一線を、飛び越えてしまいたい。引いた境界線なんてかき消してしまいたい。

　

　明日から夏休みだと言うのに、結局一言も話しかけれないままだった。荷物を整理するためにリュックを机に置いたAさんの後ろ姿を眺める。揺れるキーホルダーを見て、最悪なことが頭によぎった。









・









両想いになれるおまじない









・









・









　彼女がどこかへ行った隙に、キーホルダーを引きちぎったのは申し訳ないと思う。誰もいない教室で、Aさんが雑貨屋で買ったというねこのぬいぐるみと見つめ合う。可哀想に、俺なんかに好かれて。そっと額を合わせ合う。









・









・









　どうか、Aさんが俺を好きになりますように。







・









・









・









　最大の誤算は、ゾムもまたAさんが好きだということに、おまじないをかけ終えてから気付いたことだ。

四面不確かな楚歌→←四面楚歌

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す