ラムネの中のビー玉は二度と出れないのにね ページ30
"両想いになれるおまじない"
零れるように漏れた言葉。そんなおまじない、初耳だ。当の本人は私を押すように完全に胸倉から手を離すと、踵を変えて駆け出して行った。取り残された私も大人しく教室へ戻ろうとしたが、ペンキを貰っていないことをたった思い出して戻る羽目となった。
「両想いになれるおまじない? …あぁ、前流行ったやつね」
初耳なんだけど。と返せば私の性格が原因だと指摘された。教室に戻り、作業もひと段落した友人に問いかける。怪しげなおまじないは、一時期女子の間で流行ったらしい。
どうやら夏休み前の、丁度体育で水泳が始まったあたりから広まったのだと友人は言う。きっかけは覚えていないらしいが、
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「男子には絶対に、知られちゃいけないおまじない」
不安が渦巻く。なんだろう、嫌な感じがする。周りも友人もいつも通りなのに、言葉に重みを感じる。方法はわからないと笑う友人は、何一ついつもと変わらない。
「もう下校じゃん、早く行こ」
前に進もうと足を動かすも、自分のリュックに当たるだけうまく踏み出せない。なんか、嫌だ。私だけが、おかしいみたい。
リュックについた金具だけのキーホルダーが、揺れるだけだった。
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「うっ、」
『うぐっ、』
翌日、移動教室の帰りの出来事だった。教室に忘れた私が、急に方向転換にしたからか、後ろを歩いていた男子生徒にぶつかってしまった。私は大袈裟な声が出ただけだったが、相手は私の肘がお腹に入ったのか、跨ってしまう。
『わっ、ご、ごめんなさい!』
完全にこれは私の所為だ。駆け足だった私が悪い。顔をあげない彼の髪はラムネを想像する色で、丸いビー玉を思い出す。急いで膝をついて彼の肩に触れれば、必然的に顔が上がる。
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夕焼けの色だ。
綺麗な瞳なのに、それを隠すように分厚い瓶底眼鏡が邪魔をする。
目が合った彼は大きく見開き、痛みなんか忘れて少し後ずさりをする。触れ過ぎただろうか。私も少し離れれば、彼は顔を青くして、
「ついてる、」
反射的に聞き返す。ラムネ色の髪を風になびかせ、橙色の瞳をきらめかせ、
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「だから、憑いてる」
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@眠猫。(プロフ) - 弓矢さん» 最初はホラーと恋愛の混合が難しく、挫折しそうになりましたがそう言っていただけて本当に最後まで書き続けてよかったなと思います。しばらく更新の予定はないですが、どこかで番外編など書けたら楽しそうだなとは思います。その時はまた、読んでいただけると幸いです。 (2022年1月10日 20時) (レス) id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
弓矢(プロフ) - みんなかわいくて素敵で好きです。私の少ない語彙だと上手く言えませんが、空気感も好みで尚且つそれが直に伝わる様で読んでてとてもゾクゾクしました。最後の方もゾクゾクしつつも一周回ってワクワクしながら読み進めました。とても面白かったです。有難うございます。 (2022年1月8日 8時) (レス) @page50 id: 8d1caf834f (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - 李白さん» 初めまして。この度は数ある作品の中から私の作品を読んでいただき、ありがとうございます。完結して2か月ほど経ちましたが、まだこのような言葉を頂けることに感無量です。お時間ありましたら是非、また覗いてやってください。またどこかで会えますように。 (2022年1月2日 20時) (レス) id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
李白 - 初めまして。作品全て読みましたが解説を見て鳥肌が立ちました。最高です。この作品に出会えて良かったです (2022年1月1日 11時) (レス) id: 1cec622168 (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - このはさん» 返信遅くなりました。この度は私の作品を読んでいただきありがとうございます。練りに練ったお話だったのでそう言っていただけるととても嬉しいです。またどこかで会えましたら、よろしくお願いします! (2021年11月16日 22時) (レス) id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:@眠猫。 | 作成日時:2021年8月28日 17時