非日常 ページ7
「ちっかぁ…。」
森を出たら、草木が隠していた三日月がはっきりと見えた。一方で狼さんは森と私の家の近さに開いた口が塞がっていない。
『ここです。』
家に招き入れれば部屋を歩き回る彼。
「へぇ〜ここが人間の家ねぇ…。」
『どうしました？』
「いや？トントンの家と変わらんなぁって。」
『と、トントン？？』
「あぁ、森の中で“人外専門”の医者をやってる変わり者や。」
まぁ、あいつ自身も人外やけど。なんて言ってる。どうやら人に似ているらしく狼さんの相手になっているそうだ。
『コーヒー、どうぞ。』
「ありがとうな。」
窓を見れば大きな太陽が顔をみせ、眩しいほどの光が入ってくる。
『そうだ！狼さんの名前って何ですか？』
「ん？あぁ、知っても得はないで？」
『いいえ、折角出会えたんです。名前で呼ぶくらい、駄目ですか？』
「…その顔はずるいと思うで。」
そう言いながらフードで顔を隠していた。
「俺はな、ゾム。」
『ぞ、む。』
「ん？何ですか赤ずきん。」
赤ずきんって…確かに私は赤が好きだし、赤色の服を着ているけれど、何か少し…嫌かなぁ。
『赤ずきんって…悲しくなるのであまり…。』
「…そうか？俺は好きやで？赤ずきん。」
『っ、それはゾムさんの意見ですよね！！』
狼食べられてしまう可哀想な赤ずきん。あの時、狼に食べられたとき、どんな感情だったんだろう。だから御伽話は嫌いだ。シンデレラも白雪姫もみんながみんな幸せじゃない。
「…ハッピーエンドは嫌いか？」
『…ただ、辛いこと苦しいことが、“ハッピーエンド”の一言で消えてしまうじゃないですか…。それが嫌で…。』
自分勝手だと、ひねくれてると分かっているけれど。
『それと、童話とか御伽話の類を聞くと、亡くしたお母さんを思い出してしまって。』
中々眠れなかった時、いつもお母さんは本を読んでくれた。その声と、顔がついつい思い出して寂しくなってしまうからだ。
「…寂しいなぁ。ますます俺と同じや。」
ゾムさんを見れば彼も悲しい顔で笑っていた。
「…名前は？」
『っ、Aです。』
「そう、綺麗な名前やな。」
おいで。そう言われてゾムさんは私を優しく抱きしめた。
「寂しいとき、抱きしめられたら安心するやろ？」
『…とっても。』
私達は似た者同士だから。ゾムさんの体温は温かく、ふわふわの尻尾で私の背中をリズムよく叩く。狼に抱きしめられている赤ずきんってどうなんだろう。笑えてくる。けど、こういうのも悪くないかな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 487人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆい - この、物語をつくっていただき、ありがとうございます。この一言に尽きます。 (2020年7月27日 22時) (
レス) id: 63830571c3 (このIDを非表示/違反報告)
や〜神(プロフ) - まじで泣いた。素敵な作品ありがとうごさいました。 (2019年5月13日 12時) (レス) id: 73f7a8851f (このIDを非表示/違反報告)
眠猫(プロフ) - ミントさん» ありがとうございます！！感想を頂いて、久しぶりにこちらも見返して、時が経つのは早いなと実感しました…。連載中の物もありますのでよろしければそちらもどうぞ！！ (2018年12月23日 19時) (レス) id: 6df2bbbd20 (このIDを非表示/違反報告)
ミント - 作者さん何でこんなに泣かしてくれるんですか本当に感動しました。ありがとうございます (2018年12月23日 13時) (レス) id: 41f91518d5 (このIDを非表示/違反報告)
猫うどん(プロフ) - 眠猫さん» ありがとうございます！！もちろんです！ (2018年9月7日 22時) (レス) id: b69debf442 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：@眠猫。 | 作成日時：2018年4月30日 16時
