満月 ページ15
珍しく、今日はゾムさんが来ない日だった。折角、アップルパイを焼いて待っていたのに。この量は一人では食べ切れそうにない。取り敢えずアップルパイを冷蔵庫に入れ、自室で静かに本を読む。窓を見ればもう夕焼け色になっていて、外に出るのはやめた。
導かれるように手に取った『オオカミと赤ずきん』。童話としては良くないけれどよく読んでもらっていた。この本を読んだ私とグルちゃんは、オオカミに会いた一心で森に行こうとした私を止めたっけ…。でも、私は好きじゃない。オオカミに食べられた赤ずきんなんて…。
『やめよう。この話は。』
ただ、可哀想なだけ。
お腹の音で本から現実の世界に引き戻される。軽食を取って読書に戻る。戻ろうとしていた。
『っ…狼の…遠吠え？』
確かに森の方からだ。まさか―――――
嫌な不安が私を煽る。一瞬、森がざわついた気がした。
“森に入るなという掟がある”
“狼は人間の敵である”
『、破ってしまったんだもの、森に入るのも狼に出会うのも。じゃぁ、いいか。』
やってしまったものは仕方ない。赤いロングのカーデガンに身を包んだ。
夜の森は大層不気味であった。遠吠えが近くなってくる。視線がたくさん集まってくるが気にしない。
『…。』
息をのむ回数が増える。喉もヒューヒューとなって息が荒い。
『っ、ゾムさん！？』
長く太い尻尾。大きな耳。そしてあらわになった長い爪。駆け寄ろうとしたら何か血生臭いものに拒まれる。ふと周りを見れば、赤い血痕が散らばっている。
『…ゾム…さん？』
何かを切り刻んだような、爪から垂れる赤い液体に目を瞑った。
今宵は満月。なんだ、御伽話だったのか。満月の夜に豹変してしまう狼、狼に食べられてしまう赤ずきん。
『…何、してるんですか、ゾムさん。』
彼の目に光などなかった。緑の瞳に私が写るだけ。
『ゾムさん、』
彼はまっすぐ私を見つめるだけ。
『ゾムさんっ、』
ゆっくりこちらに向かってくる。私は一歩後ずさる。出会ったときとおんなじ。
『ゾムさんっ？』
止まって、止まれ、全身に赤を纏わせて、一歩、また一歩と近づいてくる。
『っ、ゾム！！！』
ぴくりと止まった。ゾムさんの胸ぐらに掴みかかって精一杯の抵抗を見せる。手は震えているけれど、でも
『っ、！！！』
世界がひっくり返る。押し倒された。
『ゾムさん？ゾムさん？』
私の声は届いている？
胸板を押すも動かない。食べられる―――
「大丈夫か！！？？」
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ゆい - この、物語をつくっていただき、ありがとうございます。この一言に尽きます。 (2020年7月27日 22時) (
レス) id: 63830571c3 (このIDを非表示/違反報告)
や〜神(プロフ) - まじで泣いた。素敵な作品ありがとうごさいました。 (2019年5月13日 12時) (レス) id: 73f7a8851f (このIDを非表示/違反報告)
眠猫(プロフ) - ミントさん» ありがとうございます！！感想を頂いて、久しぶりにこちらも見返して、時が経つのは早いなと実感しました…。連載中の物もありますのでよろしければそちらもどうぞ！！ (2018年12月23日 19時) (レス) id: 6df2bbbd20 (このIDを非表示/違反報告)
ミント - 作者さん何でこんなに泣かしてくれるんですか本当に感動しました。ありがとうございます (2018年12月23日 13時) (レス) id: 41f91518d5 (このIDを非表示/違反報告)
猫うどん(プロフ) - 眠猫さん» ありがとうございます！！もちろんです！ (2018年9月7日 22時) (レス) id: b69debf442 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：@眠猫。 | 作成日時：2018年4月30日 16時
