ワンダーランドなんて、 ページ42
ぼやけた視界は次第に空に焦点を合わせ、晴れ晴れとした景色を鮮やかに色づける。
「Aっ、やっと起きた」
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『―――おねえ、ちゃん、』
肩を叩いたのは、姉だった。
「母さんから連絡あったの。Aが泣きながら帰ってきたって」
『うん、』
「でも、心配して損した」
私の真似をするように、木の幹に背を預け隣に座った姉に、前髪を掬われる。姉と違って、黒い色のままだ。
「A、良い夢でも見た？」
『………夢？』
瞬きを、一つ。ぐるりと見回し、呼吸を一つ落とす。
・
・
『見たよ、不思議な夢』
「…そっか」
木の根には大きな穴なんてない。二足歩行でこちらを見つめるウサギも、気だるげなチェシャ猫も、泣き虫な蜥蜴のビルもトランプ兵も赤と白の王子も眠りネズミも、帽子屋も、芋虫も、司書も、不思議の国も、何一つここにはない。
『…お姉ちゃん、私、会社辞める』
「そっか。Aがしたいようにしたらいいの。お母さんも私も反対しないし」
『大人になることが、こんなに怖いとは思わなかった。でも、逃げるのはね、もうやめるの』
「……うん。世の中には、Aのことをちゃんと見てくれる人が少ないもんね」
『それに、忘れたことを忘れるのも、やめる』
姉の瞳は、私と同じ色だ。
『お姉ちゃん、私、夢の中でアリスになってた』
立ち上がり、服についた汚れを払う。あともう少しで、空も橙色に変わっていくだろう。
「どうだった？ アリスになった気分は」
ポケットに入れていた携帯を取り出す。時刻は、着々と進んでいく。今日は何時に動画が上がるのだろうか。予定通りかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
『んー、普通だよ』
でも、それでも、
・
・
『ワンダーランドなんて、って思ったかな』
絶対、君たちに会いに行くから。忘れない、忘れないよ。絶対いつか、伝えるから。
不思議の国じゃない、この世界で。
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@眠猫。(プロフ) - 戯於さん» 私には勿体ないお言葉ばかりで…。ありがとうございます！ 目まぐるしく変わっていく展開ですが、隅々まで読んでいただき光栄です。少しでも長く、貴方の中にこの作品が残りますように！ (2022年8月7日 18時) (
レス) @page48 id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
戯於 - わぁあ…文に才能がありすぎます、ガチめに泣きました…。世界線の変え方とかhappy endじゃなかったときの絶望感とかの書き方が…もう…めっちゃ凄いです。ラストが凄い好きでした。多分一番好き。もう…最高の物語をありがとうございます…！ (2022年8月7日 10時) (レス) @page47 id: 197ff74d89 (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - チーズ.さん» ありがとうございます！私には勿体ない言葉です…。展開を意識しすぎて文章はお粗末になってしまったかもしれませんが、大変嬉しいです。ありがとうございます！！ (2021年8月17日 22時) (レス) id: f602ea559e (このIDを非表示/違反報告)
チーズ.(プロフ) - 普通にこういう方達やなくても色んなジャンルの小説書いて欲しいレベルで凄いですね！！まさかこうなるのかと圧倒されました！いやぁ、凄ぇ…… (2021年8月16日 7時) (レス) id: 994e308db6 (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - パソコンの精さん» ありがとうございます！いいえ！とっても伝わりましたっ！！原作の方もとってもかけがえのない、大切な物語です。私の心の中にもいつもあります。それをパソコンの精さんにも知っていただきとても嬉しいです！新作の方もよろしくお願いします！！ (2021年8月12日 22時) (レス) id: f602ea559e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：@眠猫。 | 作成日時：2021年5月3日 18時
