"Eat me"なんかに騙されない ページ20
大人になんてなりたくなかった。ずっと、子供のままでよかった。何かに責任を持つこと。評価をつけられること、嫌われないように、必死になること。それが嫌だった。私を見ないでほしい。誰も、私のことなんてほっておいて。一人にしておいて。
「…わかった」
シャベルが背中に掛けられ、殺気が収まった。ゆっくりと立たされて、城の中へ入る。大理石に写った私の顔を見ることなんてできなかった。きっと、酷い顔をしているのだろう。
「阿保、アリスの阿保っ！」
『…ロボロ君、』
人一倍大きない声で否定される。自ら書類整理、つまり粛清されるかどうかの裁判にかかりに行くなんて、なんて頭が悪いんだ。馬鹿だと笑ってほしい。コネシマさんとの約束を破ってしまうと、罵ってほしい。それでも私は、私は、
『私は大人なんだから。…責任を、取らなきゃいけない』
私は大人なんだ。誰がどう見たって、私は成人を迎えてすっかり大人になってしまった。お酒だって飲める、煙草だって頑張れば吸える。私は、不思議の国に迷い込んで右往左往するような無知な少女じゃないんだ。目的も計画も考える、責任だって背負える、大人なってしまったんだよ。
大人になるって、こういうことなんだよ。
「アリス、」
『ショッピ君、笑わなくなったって、本当？』
「…っ、ちが」
『私のせいで、ごめんね』
チェシャ猫の言葉を遮れば、静かに気落ちしたように口を閉じた。感情の起伏が小さな人だと思っていた。大人びてる、なんて。本当は私のせいで、感情が奪われただけなのに。本当はショッピ君も、弾けるような笑顔を見せることだってできるのに。
シャオロンに腕を引かれ、靴底を擦りながら真っ赤な廊下を歩く。なんの面白みのない廊下が、正面にそびえ立つ分厚い扉が、足取りを重くさせる。
でも不思議と、背中は軽かった。
「アリス、連れてきたで」
古めかしい音を立てて開けた真っ赤な扉の先には、羽ペンを持ちながら頬杖をつく、マフラーを巻いた体格の良い男だった。
・
・
「…おかえり、アリス」
それが、呪いになるとも知らずに。
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@眠猫。(プロフ) - 戯於さん» 私には勿体ないお言葉ばかりで…。ありがとうございます！ 目まぐるしく変わっていく展開ですが、隅々まで読んでいただき光栄です。少しでも長く、貴方の中にこの作品が残りますように！ (2022年8月7日 18時) (
レス) @page48 id: 91126b09d4 (このIDを非表示/違反報告)
戯於 - わぁあ…文に才能がありすぎます、ガチめに泣きました…。世界線の変え方とかhappy endじゃなかったときの絶望感とかの書き方が…もう…めっちゃ凄いです。ラストが凄い好きでした。多分一番好き。もう…最高の物語をありがとうございます…！ (2022年8月7日 10時) (レス) @page47 id: 197ff74d89 (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - チーズ.さん» ありがとうございます！私には勿体ない言葉です…。展開を意識しすぎて文章はお粗末になってしまったかもしれませんが、大変嬉しいです。ありがとうございます！！ (2021年8月17日 22時) (レス) id: f602ea559e (このIDを非表示/違反報告)
チーズ.(プロフ) - 普通にこういう方達やなくても色んなジャンルの小説書いて欲しいレベルで凄いですね！！まさかこうなるのかと圧倒されました！いやぁ、凄ぇ…… (2021年8月16日 7時) (レス) id: 994e308db6 (このIDを非表示/違反報告)
@眠猫。(プロフ) - パソコンの精さん» ありがとうございます！いいえ！とっても伝わりましたっ！！原作の方もとってもかけがえのない、大切な物語です。私の心の中にもいつもあります。それをパソコンの精さんにも知っていただきとても嬉しいです！新作の方もよろしくお願いします！！ (2021年8月12日 22時) (レス) id: f602ea559e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：@眠猫。 | 作成日時：2021年5月3日 18時
